KEO Discussion Paper No.53

「資本サービス価格の計測」


概要

 本稿では新古典派生産理論に基づき、資本財別産業別資本サービス価格を1960-92年にわたって計測することを目的とする。われわれが観測可能な諸変数−新規投資額、資産別取得価格、産業別資本所得等−は、実際には企業所得、資産取得あるいは保有に賦課される複雑な税体系および各種優遇税制によって影響を受けたもとでの観察値であり、それを記述するモデルを必要とする。ここでは新古典派理論における双対的な資本サービス量および資本サービス価格の理論図式に基づき、我が国の企業税制−法人税、法人住民税、事業税、取得税、固定資産税など−と優遇税制−引当金・準備金制度、特別償却制度−を考慮したもとでモデル体系の拡張をおこなっている。そのモデルのもとで、観察される資料から各種理論変数概念と可能な限り整合的になるべく具体的な各種変数を計測し、1960-92年にわたって産業別資産別資本サービス価格を計測している。
 特に我が国においては有形固定資産に占める再生産不可能有形固定資産である土地の割合は大きく、その考慮の有無によって資本サービス価格に大きな影響を与える。また新古典派理論の適用の範囲によっても仮説を異にする要素もある。資本収益率についてみれば、産業間均等化を仮定するのか、あるいは産業別に資本財間均等化を仮定するかは、先験的には決定できない問題であろう。よって税体系の考慮、資本収益率、土地ストックの体系への導入等による資本サービス価格の計測結果を通じて、それらの影響について考察する。
 資本収益率および資本サービス価格の計測結果から得られた結論は次のように要約される。a.資本収益率の時系列的な傾向としては、税引き前および税引き後ともに1960年代から第1次オイルショック時までの上昇、それ以降の急速な低下である。1980年代中頃からは、上昇に転じ1989年のバブル崩壊をピークにして再び低下している。b.税引き後資本収益率は、実効法人税率の上昇を主因として1980年以降には低下傾向が加速している。引当金・準備金利用率の低下も要因の一つである。c.一国全体の資本サービス価格に税体系の導入が与える影響は、軽微なものにとどまっているが、産業別資本サービス価格の跛行性を弱め、資産別資本サービス価格の跛行性を強めている。d.資本サービス価格において産業間での資本収益率均等化を仮定することは、計測結果からみると適切とは言えない。この観測期間において資本収益率は横断面的にも時系列的にも産業別の跛行性が大きなものであった。e.再生産有形固定資産に限らず、土地資産を含めたとき、一国全体の集計量では税引き後資本収益率を大幅に低下させ、資本サービス価格を大きく変動させる。我が国の地価の上昇、およびそれによるキャピタルゲインが資本サービス価格の不安定性を増す。f.電気機械、自動車などの資産では、1980年以降資本サービス価格は安定的に推移し、1990年以降低下している。
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