設立の経過

~慶應義塾大学産業研究所(1959年)『設立経過・事業の特色・規程等』より引用~

「慶應義塾は昨年創立百周年を記念し、新しい世紀を迎えて新時代の要請に応じうる一連の企画の実施に着手いたしました。慶應義塾大学産業研究所の設立もその一環であります。

すでに数年来学内の労使関係専門研究者の間に共同研究を進めるための研究機関設立の気運がおこっており、また、その多くの者が学外諸機関の労使関係研究の共同研究に参加し、指導的役割を果たしており、さらにハーバード大学高等経営学講座の開催によっても学内研究機関設立に対する学外の要望とその気運が昻められて参りました。

このときに当って、奥井塾長が百年記念祭準備のためアメリカ各大学を訪問し、産業の目ざましい発展に対応しておこる諸問題、とくに経営および労使関係問題についての研究所活動を視察して、この種研究機関設立が、まさに新世紀を迎えた本塾の使命であるとの信念をもつにいたりました。たまたまジョン・ロックフェラー氏に面接した際、塾長がこの信念を打ちあけましたところ、同氏も心から賛意を表され、氏の援助してきたプリンストン大学の研究所を紹介された上、本塾研究所設立準備に同研究所関係者の派遣を約束されるなど、非常な関心を示されました。

その結果、昨年夏プリンストン大学産業関係研究所所長ハービソン教授が本大学を来訪され約2週間にわたって各方面の調査を行い、本大学関係者と協議を重ねた結果、本大学研究所の暫定構想についての勧告書を作成しました。また今春アメリカ四大学の関係教授らの訪日に際しては各氏の経験に基づく助言をうける機会に恵まれ、その際フォード財団の副理事長もこの研究所事業について多大の関心を示して帰られました。

さらに、その具体的事項について学内関係者、産業界上層幹部・中堅幹部および労働界の方々との会合を通じて実際活動の指導者層の要望についても充分に調査して、最終構想を決定し、ここに正式に本産業研究所の設立をみるにいたりました。

その構想は工業化の進展に伴っておこる諸種の問題を分析するために学内に6学部に分属する多数専門研究者の組織的な綜合研究を企画推進することに重点をおき、産業界・労働界と緊密な関係を維持しつつ実証的な研究をすすめ、その成果を学内教育に、また学外の実際社会にも広く利用に供して役立たせようとするものであります。

設立にあたって学外各方面の多大な援助を要請する次第であります。」