PSION社のコンピュータをはじめて見たのは、199?年のこと。パソコン雑誌か何かに載っていたのを見たのだと思う。小さなボディーにキーボードだけがいやに存在感のあるマシンだと印象を受けたことを記憶している(*)。もちろん、当時は、日本語にも対応しておらず、選択肢には全くのぼってこなかった。ザウルスがわが国市場を席巻していたとき、手書き入力に懐疑的(**)だったわたしは、外国向けザウルス(***)にキーボードがついていたのを見て、羨ましくさえ感じていた。
日常的に文章を書くことを"なりわい"としているわたしにとって、入力環境は重要な要素だ。その点で日本語非対応は論外だが、十分な大きさのキーボードは何にも増して魅力的であった。
実際、このキーボードに触れてみたのは極めて最近のことである。UniFEPのバージョン2がいよいよ出るという情報を耳にし、具体的に購入を検討しはじめたころからであった。PSIONを取り扱っている秋葉原のイケショップでいろいろいじってみた。キータッチは、最初、ちょっと固く重く感じた。しかし、この大きさによくこれだけのキーを詰め込んだものだといささか感動した。そして、実用に十分耐えうるものと確信した。
バッテリーの問題は、重要である。バッテリーの残量を気にしながら作業を続けるのは、PDAのメリットを台無しにするぐらい大きな問題である。一般にPDAはハードディスクを回さずに済むし、カラー液晶を見やすくするためのバックライトを点灯しなくてよい。したがって、バッテリーの消費量は少なく、稼動時間が長い。
では、何が問題か?
充電式電池を選択するか、さもなくばいわゆる乾電池を選択するかの問題である。充電式の電池を考えた場合、リチウム電池とニッケル水素電池が一般である。リチウム電池はコストが高くつく代わりに、電圧が安定している。ニッケル水素電池は、いわゆるメモリ効果(****)のため、思わぬ痛い目にあうことがしばしばある。また、機動性がものをいうPDAだからこそ、充電時間がもどかしく感じることも少なくないであろう。
結局、わたしは乾電池を選択した。PSION Series 5mxは、市販の単3乾電池を二個使う。これで35時間。通常の使い方ならば一ヶ月はもつ。しかも、突然、電池がなくなったとしても、コンビニなどで簡単に手に入る。かつて、チャンドラー(*****)とよばれるブック型パソコンの名機が存在したが、このバッテリーはハンディ・ビデオカメラ向けの市販バッテリーを使っていた(但し、充電式電池を使用)。実際に保有することこそ無かったが、その思想には大変共鳴した。
乾電池を使うものならば、NECのモバイルギアがあるはずだ、という意見もあるだろう。実は、わたしはこれを使っていたことがある。ちょうど、WINDOWS CEが出たときに購入した。それなりに有効につかったが、わたしには馴染めなかった。おそらくその第一の理由は、その大きさにあったように思われる。ザウルス程の大きさに、キーボード。わたしにとってこれが全てである。また、PDAとして是非欲しい使いやすい手帳・メモ機能。
何かモバイルギアはもっぱらテキストを入力するために使い、それに尽きたような気がする。唯一つ使えたのは、ヘルプファイルを利用してハイパーテキスト法令集を作ることができたことであろう。これはOSの機能である。
いま、そのモバイルギアは知り合いにもらわれ、そこで活躍中である(******)。
「わたしの羽飾り(mon panache)だ」という言葉を最後に息を引き取ったのは、シラノ・ド・ベルジュラックである。この言葉に辰野隆氏は粋にも「心意気」のルビをふった。 WINDOWS CEは確かにWINDOWSにはないわたしに必要な機能を提供してくれた。機能といえるほどのものかは疑問だが、起動時間。一般のパソコンはこれがあまりに長すぎる。いろいろアイディアが生み出されるのは、パソコンのある書斎ばかりではないはずだ。ところ構わずふと浮かんでくるものである。
このもどかしさから、国産OSトロンを使ったこともあった。よくできたOSであり、心情的にもぜひ応援したいと思っていたが、さまざまな面でこなれていなかった(*******)。どうもわたしはさまざまなものの導入が、早すぎるようだ。もう少し待てばいろんな面で充実するのに。どうしても、一歩手前で買ってしまう傾向にある。
その点、PSIONに搭載されたEPOCはよくこなれたOSである。しかも早いし、軽い。必要なデータが大変小さい。システムが安定している。OSの作法も非常に分かりやすい。もともとマックユーザだったわたしが、捜し求めていたAnti-WINDOWS OSの羽飾りの具現化、これがEPOCである。
(*)いまから考えると、PSION Series 3だったのだろう。
(**)したがって、今、流行のパームはこの時点で選択肢から脱落する。
(***)十分に放電をしないまま、新たに充電すると、そのレベルの残量でバッテリーが100パーセントと認識してしまうため、これを繰り返すとどんどんバッテリーの容量が減ってしまう現象。
(****)この機械も一時期使用していたことがある。ペン入力のまどろっこしさをこの時に感じ、それ以来拒絶反応を示すようになった。
(*****)伝説のノートブック型パソコン。IBMのThinkPad210の開発者たちが作り出したが、同社からは日の目を見ることはなかった。その後、いくつかのメーカにライセンスされ、日立、エプソン、フロンティア神代などから続々とクローンが誕生した。
(******)友人のモバイルギア・ユーザのM氏のマシンが壊れてしまったのが機縁で、もらってもらった。
(*******)日本語変換がまだまだだった。このUniFEPを下回る有様。OSの作法は非常によいのだが、WINDOWS的な作法に慣れてしまったわたしたちにはちょっと中の構造が覚束なく、不安感を拭いされなかった。しかし、トロンの名誉のために付け加えるとすれば、現段階においてはそれもかなり改善されてきているようだ。