■■多摩大学[企業経営法務II(知的財産権法)]・講義メモ■■

=>[企業経営法務II(知的財産権法)]・講義日程表


■II 特許制度をめぐる小さな歴史■

(多摩大学・非常勤講師:石岡 克俊)

■ 講義

1.古代ローマ共和国の「独占は悪」という発想

「衣」と「食」に関する独占の除外

2.ダ・ヴィンチの栄光と不運

近代技術の父レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci,1452-1519)

工作機械(足踏み式施盤、ボール盤)から、紡績機、ポンプ・水車の発明、さらにはプロペラの発明まで

ダ・ヴィンチの活躍の場がフィレンツェ・ミラノであったことの悲運

3.歴史に残る最初の特許制度(ヴェネチア共和国)

世界最初の特許(1443年にアントニウス・マリニに対し付与された「水無しで動く製粉機」の特許:20年の独占製造権)

ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei,1564-1642)の特許:「螺旋型回胴型ポンプ」(揚水・灌漑用機械)

ガリレオの請願:

陛下よ、わたしは、非常に簡単に、費用を少ししかかからず、大いに利益のある、水を揚げ耕地を潅水する機械を発明しました。すなわち、ただ一頭の馬の力で、機械についている20本の口からひっきりなしに水が出るのです。しかし、わたしのものであり、非常に骨を折りたくさんの費用を使って完成したその発明が誰でも使える共有財産となるのは嫌ですから、恭しくお願いいたします。同じような場合に陛下のご厚情がどこかの工場のどんな製作者にもお与えになるお恵みをなにとぞわたしにお下賜ください。すなわち、わたしとわたしの子孫、あるいはわたしやわたしの子孫からその権利を得た人々のほかは誰も、上記のわたしの新造機械を製作したり、たとえ作ったとしても、それを使用したり、他の目的のために形を変えて水やその他の材料を用いて使用したりすることを、40年間、あるいは陛下が思し召す期間内は許されないように、もしこれを犯す者は陛下が適当と思し召す罰金に処し、わたしがその一部をいただきますように、していただきたいと存じます。そうしてくださればわたしは社会の福祉のためにもっと熱心に新しい発明に思いを凝らして陛下に忠勤を励みます。

* なお、ガリレオ・ガリレイの特許は1594年9月15日に付与され、期間は20年間、特許侵害があった場合、違反者は法令により機械を没収され、罰金に処せられることが決まった。

4.近代特許制度の誕生(イギリス)

近代特許制度の雛型:独占大条例(The Statute of Monopolies,1624年)

独占大条例第6条:

王国内で、いかなる方法のものにせよ、新しい製造方法・製造物を独占的に実施し、または製造する特権を今後14年またはそれ以下の期間に限って、当該製造方法・製造物の真正かつ最初の発明者ないし発明者たちに認め、この特権を認める特許状に対しては、前記の条文は一切適用されないものとする。ただしこの製造方法・製造物は、特許状が発行される時点において、他の何人も未だ用いておらず、さらに、国内においても商品の価格を引き上げたり、取引を妨げたり、あるいはその他いかなる不都合を生ぜしめるなどして、法に反したり、国家に害を与えることがあってはならない。上記14年の期間は、今後発行される特許状の最初の発行日から起算するものとする。

毛織物の生産技術導入に利用された特許状(Letters Patent)

「営業許可状としての特許」から「独占実施権を伴う特許」へ

上納金目当ての特許の乱発

5.特許が(州法ではなく)憲法の条文に(米国)

三人の大統領の発明

ジョージ・ワシントン(George Washington,1732-1799):「たる型の鋤」の発明

トマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson,1743-1826):「ポータブル机」、「回転椅子」。「乳母車用の折畳式日よけ」などの発明

エブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln,1809-1865):「浅瀬を航行する船」の特許(米国特許番号6469号、1849年)

リンカーンの特許(抄)

関係各位、わたくしこと、イリノイ州サンガモン郡スプリングフィールドのエブラハム・リンカーンは、調整可能な浮力のついた空気室を、蒸気船その他の船に取り付けるための新しくて改良された方法を発明した。その目的は、積荷を下ろすことなくそのまま加工の砂州や、または浅瀬を運行できるように、即座に喫水線を下げることを狙っている。以上のことをここに公表するものである。・・・

リンカーンの演説:

特許法は1624年にはじまり、ここアメリカでは憲法が採択されたときにはじまった。それまでは他人が発明したことをだれでもすぐに使ってよかった。そこで発明者には、自分の発明によって何ら益するものがなかったのである。特許法はこういう状態を変え、彼の発明を一定期間、独占的に使用する権利を保障することによって、新しい役に立つものごとの発見や生産における天才の炎に、利益という油を注いだ。

合衆国憲法第1条第8項第8節(議会は著作者および発明者に対して一定期間、それぞれの著述および発明について排他的権利を保障することにより、科学および有用な技術の進歩の促進を図る権限を有する。

6.わが国における特許制度の誕生

高橋是清(初代専売特許所長)を欧米に派遣。諸外国の特許、商標制度の調査

専売特許条例の公布(明治18年(1885年)4月18日)


=>[知的財産権法]
=>[講義メモ]
=>[home]