おいしい水の法律学・お値段編−「認可」はタブーなのでしょうか


水は、タダではありません。わたしたちが飲んでいる水も、タダではありません。だから水を出しっぱなしにすると「もったいない」といいます。このことはみんなが知っていることです。でも、毎日の生活において水を「タダ」のように考えてはいないでしょうか。水の値段はそんなに高くありませんものね。レストランに行っても、たのみもしないのに「お冷」が出てきます。欧米のようにミネラルウォーターを改めて注文しているのは一部だけです。

わが国は比較的良質の飲料水に恵まれていたので、「タダ」ではないということを頭で理解していても、心のどこかに「いくらでも手に入る水」という考え方を捨て切れずにいるようです。イザヤ=ベンダサンがあるイスラエル外交官に言わせた言葉、「日本人は、安全と水は無料で手に入ると思い込んでいる」とは、心のどこかにある私たちの意識を的確に捉えたものだといえるのです。

私たちの生活の中で欠くことができない水。ご存知のようにその価格は全国一律に決まっているわけではありません。わが国では水道事業はほとんどすべての市町村によって行われています。したがって、各自治体ごとにその料金は異なっているのです。どのくらい違うのでしょうか。

政令指定都市間で水道料金を比較するとその格差はおよそ二倍強。全国の市で見ると三倍弱。首都圏の市町村では約五倍。日本全体の水道事業に広げてみるとその格差は約一五倍にもなります。これらの格差は自治体の事情によるといわれています。たとえば、河川やダムを水源とする自治体と地下水を水源とする自治体。地下水の方が浄水処理をするコストがかからずに済みます。また、ダムの建設をすればそのコストが料金に跳ね返ることもあるでしょう。

市町村といった地方公共団体によって水道事業が営まれる場合、水道は「公の施設」を利用することになりますので、その料金は条例できちんと定められなければなりません。その際、水道法という法律に基づき厚生大臣に料金を届け出る必要があります。確かに水道料金は自治体の事情により、「能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし」、「公正妥当なものでなければなら」ないと法律は規定しています。

しかし、その結果が先ほどの格差です。ほかの商品やサービスでこれだけ値段に差があるモノってありますか。いくら条例できちんと決めるといっても所詮「売る側」の立場に立った価格設定ですね。法律上、水道事業は市町村の同意さえあれば民間企業が行うことも可能です。財政危機宣言下にある東京都が民営化を検討しているとの報道もあります。ただ、民間の水道業者の場合、料金を変更するときは厚生大臣の認可を受けることになります。自治体が決めたことに対しては国は口を出さない、といった信頼をいまのシステムは前提としているようですが、水道の料金を見る限り野放図といっても過言ではないようです。こうした「野放図」をチェックするシステムを考える必要があるのではないでしょうか。「認可はタブー」というこのご時世。料金設定の根拠やプロセスの公開といった制度の必要のみならず、生活のために必要なコストが他の自治体と比べてどうなのかということを見定める私たち自身の目が必要とされています。


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