家元の空気


私ども表千家短期講習会平成十三年春一組五十五名は、ただ今、七日間の講習の日程を終え、無事全員修了することが出来ました。これもひとえお家元宗匠をはじめ、主任教授の吉水先生及び助教の久田先生並びに井上先生その他数多くの家元関係者、妙顕寺の方々のお導き、ご指導のおかげと一同皆感謝しております。

さて、今回の講習の中でしばしば耳にした言葉があります。それは、「家元の空気」という言葉です。「家元の空気を味わってきてほしい」というのは、私の茶の師がこの講習の参加に当たって私に掛けてくれた言葉でもありました。

私どもは、各々、夫々の五感を通じてこの「空気」なるものを感じてきたと思います。私なりにこの「空気」という言葉を誤りをおそれず敢えて理解するとすれば、それは「緊張感」であると思うのです。

点前座における見られているという意識から来る緊張感、道具の拝見とその取扱い、時宜に適した行動、他者に対する配慮。この緊張感が家元での稽古を末永い記憶としてとどめておくことに役立ちました。

次に家元の意匠に見る緊張感があります。一定の美意識に基づき工夫された意匠。あえて緊張感を生み出す空間の演出に、私どもはかつてない経験をしました。

更に付け加えて言えば、共同生活における緊張感があります。時間ごとに仕切られた規則正しい生活、他者を意識した行動。

常茶という言葉がありますが、まさにこの講習はこれらの緊張感に裏付けられた稽古と理論にどっぷりとつかった七日間でした。理論のない稽古は、生き方、方向性を失った茶になってしまいます。他方、稽古のない理論は、緊張感、他者への配慮、自己観察に促された自律無き茶になってしまいます。

私どもは七日間の稽古と理論の学習を経て、「家元の空気」、つまり緊張感を夫々に感じて参りました。今後、私どもは、各々の住む地域社会、そして各々の先生の下に帰ってゆくことになりますが、「家元の空気」は、皆が忘れず持ち帰るべきものの一つであることは間違いないように思われるのです。

改めまして、七日間本当にありがとうございました。皆を代表して感謝の意を表したいと思います。


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