いわゆる信書問題に寄せて


情報化が高度に発展した現代において、私たちのコミュニケーション手段は多様を極めています。電話や携帯電話といった音声によるもの、そして葉書や手紙、ファックスさらにはEメールといった文書によるもの、さまざまです。

これらの手段を利用する際、私たちはここで交わされた内容について、通常、「他人に知られない」ということを前提としてコミュニケーションをしています。実際、通話の内容を知りうるNTTなど電気通信事業者の従業員や、葉書や手紙の内容を知りうる郵便局の職員には守秘義務が課されています。

このような葉書、手紙といった「特定の人が特定の人に意思や事実などを伝える文書」のことを「信書」といいます。現在、わが国ではこの「信書の送達」を中心とするサービス(郵便事業)を国営とし、政府(郵政省)による独占事業として行われています。このような国家による独占を支える根拠としてよく挙げられるのが、すぐ前で指摘した「信書における秘密の確保」と「郵便サービスの公平な利用」です。

しかし、近年の宅配便事業の急激かつ大幅な発展により、こうした状況が大きく変わってきました。というのも、郵便事業には信書送達サービスだけではなく、「ゆうパック」でおなじみの小包配送サービスもその事業に含まれており、この分野において宅配業者との競争が活発化してきたからです。

その中で現れてきたのがいわゆる「信書問題」です。地方自治体が地域振興券の配達を民間の運送会社に発注しようとした際に、これが「信書の送達」に該当し、郵便事業の国家独占を認める郵便法に違反すると郵政省が横やりを入れたことに始まります。さらにクレジットカードやキャッシュカードの配送業務を郵政省の独占としていることについても問題になりました。宅配業者の雄ヤマト運輸が、公正取引委員会に調査を依頼しましたが、委員会は「郵便法の優先解釈権は郵政省にある」といい、事件として取り上げませんでした。このような対応が果たして妥当であったかどうかは疑問が残るものの、「信書」とは、いったいどこまでを意味しているのかというのがこの議論の焦点です。「信書」の理解の仕方によって、民間との競争にさらされる範囲が広がったり狭まったりします。しかし、真の問題は民間と競合する分野における政府のあり方です。単に民間事業者を郵便事業に参入させればよいというものではありません。

コミュニケーション手段が多様化し、また宅配便サービスが発達した現代において「サービスの公平な利用」という根拠は徐々に弱まってきているといえそうですが、「信書における秘密の確保」の要請はいまだ重要な意義を有していると思われます。このような要請が国営・国家独占と関係があるのか、これを手段としなければ本当になしえないのか、いま一度検討が必要と思われます。


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