オープン懸賞に見る消費者と企業の新しい関係?


昨年の四月から景品提供額の上限に関する基準が緩和された。公正取引委員会は、事業者が一般消費者に対して、購買などを応募の条件としない−つまり「取引に付随」しない−いわゆるオープン懸賞を行う場合、その景品の額を、一応、上限百万円から一千万円に引き上げたのである。これを受けて、日清食品や永谷園が現金一千万円が当たるオープン懸賞を実施したのに続いて、日産自動車が乗用車、上島珈琲が海外一周旅行の大型懸賞を実施したことは記憶に新しい。あたかも企業が宝くじの主催者になったかと見紛うような状況であった。こうした一連の懸賞ブームを背景として、懸賞情報を集めた雑誌まで刊行される始末であった。

あれから一年…。

今年は、わずかライオンなど数社がオープン懸賞を実施するにとどまっている。あんなに話題になった「一千万円」はどこへいってしまったのだろう。これには、企業と消費者とに懸賞景品に対する思惑の違いが投影していると思われるのである。企業にとって、オープン懸賞は一般消費者の広告に対する注目度を高め、広告の商品やサービスさらには企業名を覚えてもらい、企業のイメージアップを図るために行われる。また、自社製品等を景品にすることで、関心のある顧客を発掘し、こうした潜在的顧客のデータを収集するために利用されることもある。一般に、オープン懸賞は、懸賞の応募に当たり取引を条件とするいわゆるクローズド懸賞と比べ、取引に与える影響が間接的で販促効果を評価しにくいし、現れにくいといわれる。

こうしたオープン懸賞の特性を前提として、企業は懸賞を単なる知名度アップの手段としてではなく、もっと販売に結びつく形で活用する方向性を打ち出すようになってきている。その証拠にオープン懸賞の数は昨年よりも低下し、クローズド懸賞が増えている。景品の上限額が一千万円になってもインパクトがあるのはせいぜい「現金」や「海外旅行」。これでは旅行代理店でもない限り販売には結びつくことはない。内容も上限額が引き上げられたからといって、多様化するわけでもない。インパクトのある高額商品なんて知れているのである。「現金」等では販売に直接結びつくことは少なく、せいぜいその企業が太っ腹であること(コスト感覚の無さ?)を国民にさらしているようなものである。いまや知名度アップのために懸賞を付するより、自らの商品の販売促進に寄与するように懸賞を利用しようとしているの大勢である。

このような企業の意図とは裏腹に、懸賞情報誌を買って懸賞をしらみつぶしに応募する懸賞マニアなる者が存在している。彼らは懸賞に当たるために必要なノウハウを持っているといわれ、当選を獲得するためには自分の職業や性別も偽るといわれる。さまざまなヒット商品を生み出しているコギャルたちは、次のヒット商品をねらう企業のアンケートには決して本音を語らないというのにも似ている。

こうしてみると、何か企業と消費者の新しい関係が見えてくる。現在、企業がオープン懸賞を実施しても、意図した効果が得られない状況になっている。結局のところ、今回の上限額の引上げは何だったのであろうか。自動車メーカー等の高額商品製造販売業者が自社製品の提供が可能となったというだけで、消費者に手玉に取られた企業という構図が確認されただけではないだろうか?


=>[法をめぐる短いエッセイ]
=>[home]