セーフガードをどう見るか(I)―セーフガード措置の現在(いま)


昨年末、ねぎ、生しいたけ及び畳表の三品目について、政府はセーフガードに係る調査を開始し、今年四月に二〇〇日間の"セーフガード暫定措置"を発動した。政府はその後も並行して調査を継続し、年末までにセーフガード措置発動の最終的な決定を行う。他方、今年二月、日本タオル工業組合連合会から政府に対し、タオルついて"繊維セーフガード措置"の発動要請がなされ、四月に調査が開始された。こちらも年末までに措置の発動に関する決定がなされることになる。いずれも主として中国からの輸入品に関するものである。また、これら一連のわが国の動きに対し、中国政府は、日本製の自動車、携帯電話及びエアコンの三品目に関し、対抗措置として特別関税を課すことを決定したとの報道がなされている。

ところで、「セーフガード」とは「緊急輸入制限」のことである。外国における価格の低落やその他予想されなかった事情の変化によって、ある特定の商品の輸入が増え、その結果、これと競合する商品を生産するわが国産業に重大な損害を与え、又は与えるおそれがある場合で、かつ国民経済上緊急に必要があると認められるときには、政府によりその商品の輸入数量が制限されたり、緊急関税が課されることになる。わが国における緊急輸入制限制度は、輸入数量制限については「外為法」、「輸入貿易管理令」及び「貨物の輸入の増加に際しての緊急の措置等に関する規程」により、そして関税の賦課については「関税定率法」及び「緊急関税等に関する政令」により実施される。これらは、いずれも一九九四年ガット第十九条及びセーフガード協定の内容を国内法化したものである。

そもそもセーフガード措置は、自由貿易の一般ルールに対する例外として位置付けられており、その基本的な性質は経済構造の調整に重点を置いた「暫定的な」ものである。したがって、この措置は、国内産業に対し、競争力(生産性、価格、品質)の改善や生産資源の他分野へのシフトを促す機会と時間を付与するものである。逆にいえば、このような効果が期待できないセーフガード措置は、一部の生産者に利することにはなり得ても、多数の消費者・ユーザーの犠牲の上に成り立つものであり、意味をなさないどころか、無駄でさえある。

もちろん、このような暫定的な調整措置は、自由貿易という目的がなければ考慮する必要はない。グローバリズムに名を借りた市場万能主義や自由貿易の御旗は、さまざまな摩擦を引き起こし、最近ではいささか評判が悪い。しかし、「貿易の自然の効果は平和へと向わせることである」という先哲の言葉を引用するまでもなく、また、経済のブロック化が前世紀における悲劇を導いたことを指摘するまでもなく、貿易の拡大は各国を深く結びつけ、国境を越え人々のさまざまな必要を満足させる。また、自由貿易は国家間の軍事的な対立の範囲を狭め、軍事力の行使によるメリットを低下させる。経済的な相互依存が、世界規模でかつてないほど深まりつつある現在、自由貿易の一般ルールは期待されたその機能と役割を十分に果たし、われわれは多くの果実を享受している。


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