くじ運のおかげ(?)で台場の公共賃貸住宅に住むようになり、はや一年半余。非日常と日常とが混在するある種の特殊な土地柄に、多少の違和感を感じていた最初に比べ、最近ではこの場所での生活のリズムにやっと慣れてきたような気がします。
スーパーがたった一店舗しかないとか、病院が少ないとか、夜間の自動車の騒音とか、言い出したらキリがないことは、どこに住んでいても変わらないのかもしれません。しかし、"日常"生活に必要なインフラが十分に整っているとはまだまだいえる状況ではないことは確かです(もちろん、近くに観覧車があったり、遊園地もどきがあったり、ちょっと食事に行くには事欠きませんし、買い物のときに映画の予約を入れ、夕食後、最後でちょっと安くなった映画を見に行くという"非日常"的な体験は、他のとろこではおよそできない芸当でしょう)。
なかでも、この地区に住み、そして他の地区に毎日出勤するわたしにとって、もっとも生活上の不満を感じるのは、この地区の公共交通サービスのあり方についてです。現在、都心へは"ゆりかもめ"やバスで十五分程、新木場や天王洲へのアクセスも簡単です。地図上一見便利な場所のように思われるココが、いまだ「都会のど真ん中にいるようで、いないようで・・・」と思わせる見過ごせない理由の一つに、公共交通サービスにかかるコストの問題があるのではないかと思っています。
現在、"ゆりかもめ"で終点の新橋までは十五分程で三一〇円です。隣の駅までは橋を渡り五分ほどで着きますが、そこまで二四〇円。都心に出ようとするなら驚くことに初乗りはこの値段になります。都営バスなら浜松町まで二〇〇円、りんかい線で新木場までなら一七〇円ですから、その価格の高さは群を抜きます。
したがって、合理的な消費者の行動は、都心までなら"ゆりかもめ"ではなく、他の交通機関(特にバス)を利用するようになります。しかも、バスならプレミアムがついたカードが利用でき、金券ショップに行けば、もっと安い価格で購入できます。もちろん、JRや私鉄のカードもないわけではありませんが、プレミアムがないばかりか、値段的にあまりおトクではなく、しかも近時の不況のせいか出回る量がめっきり少なくなったそうで、ここ数ヶ月ほど品薄状態が続いているようです(金券ショップ従業員のはなし)。
もちろん、価格だけで判断しているわけではありません。サービス、とくに運行時間帯の点も問題です。この地区の交通機関(特にバス)は、始発が遅く、終電・終バスはあまりにも早いのです。最近では、金曜日に限り若干遅くまでバスを運行しているようですが、それでも午後九時前後まで。ちょっと思い立ち、早朝から出かけようにもバスは動いていません。住民は、値段(バス)をとるかサービス("ゆりかもめ")をとるかの二者択一を迫られているのです。
お台場は、観光地であり、"非日常"を体験する場所。しかし、一方で、住宅地であり、"日常"生活をおくっている人が四千人余りもいる場所でもあります。家計に占める食費の割合をエンゲル係数といいます。また、教育費の割合をエンジェル係数といいます。家計の中に占める交通費の割合を何というかは知りませんが、この地区の住民はきっとこの係数の値が他の地区の住民に比べ、かなり高いのではないかと思います。
この事実は、同じサービスの価格であっても、生活必需サービスとして捉える人もいれば、ディズニーランドへの入場料くらいにしか考えない人もいるということを示しています。