現代公共賃貸住宅事情


新橋からゆりかもめに乗り、レインボー・ブリッジを過ぎたころ、右側に見える建物群が「シーリア」と呼ばれるお台場の居住地区です。「シーリア(Searea)」とは"sea"と"area"の合成語。一番街から五番街まであり、すべて都や公団・公社が供給している公共賃貸住宅です。

昨年10月に募集・抽選があり、縁あって3月からここに住むことになりました。この地区の住宅供給主体は、東京都(住宅局)、東京都住宅供給公社そして都市基盤整備公団の三つです。住宅の性質によって都営住宅と都民住宅(公営住宅法に基づく)とに分かれ、それらは根拠法や対象が違っています。また、いずれも入居資格者の年収に関し一定の制限があり、前者は年収が基準以上になった段階でその住宅に住む資格を失うことになる一方、後者は基準額を超えた場合でも引き続き住むことができます。

もともとわが国では「持ち家指向」が強いと言われ、賃貸住宅の供給はどちらかといえば二の次。それも家族が少なく、収入がそれほど高くない若年世帯向けと考えられてきました。そのため、どうしても数量本位で住宅が供給されることになり、その品質については極めてお寒い状況にあるとの評価がこれまで一般的だったようです。

そこで、平成に入り「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(特優賃法)」が制定されました。この法律は、ある一定の基準以上の品質を持つ賃貸住宅を施工・運営しようとする者に対し、政府が資金的に助成するというものです。そのための基準の大枠は予め法律で定められ、さらに地域の特性に応じ条例・要綱で細則が決められます。一般に、この法律により支援対象となる施工主体は公団や公社であり、民間ではありません。家賃も都営(公営)住宅のように安くありません。つまり、住宅の供給は民間が提供する、これが原則であり、政府はその補完的役割を演ずるべきだという考え方なのです。この立場は、民業を圧迫しないような家賃設定を法律が求めていることからも明らかです。

家賃は民間と変わらないのに、住宅の品質は一定水準以上なのですから、当然わたしたちにとっては、値頃感というか割安感というものを感じることができるでしょう。そうなるとこちらを選択する人が増え、民間の不動産業者などが顧客を獲得するにはそれなりの品質の住宅を供給しなければならなくなります。こうした施策が、賃貸住宅市場に一定のインパクトを与え、住宅品質の底あげ効果が期待できるわけです。

このように住宅政策は、家賃補助といった直接的な市場介入から品質競争促進施策へとすこしずつシフトしてきているようです。


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