先日、中国から帰国した。一〇日間の日程で瀋陽・成都・重慶の各都市を視察した。わたしが現在所属している産業研究所は、数年来中国における環境問題をさまざまなアプローチで手がけており、今回の視察も、このプロジェクトの一環であった。
今回の視察は、環境・公害問題に関するものであったが、わたしはこの問題を考える以前にこの国に関するより多くの疑問を持ち帰ってきた。環境・公害問題に限らず、多くの社会問題といわれるものは、ひとり法や制度のみの分析・検討にとどまらず、さまざまなアプローチによる分析・検討を前提として取り組まなければならない。いわれてみれば至極当然のことではあるが、法律学者は、得てして逆の思考に陥り易いものである。法律学を専攻するわたしは、どうしても法や制度に関心がいってしまうと同時に、いろいろな問題をまず法や制度から見てしまう。しかし、中国は「人治主義」の国であると一般にいわれているように、必ずしも法や制度があるからといってそれが機能しているとは限らない。
あちらこちらの都市を見て歩いていくつもの疑問をもちつつ、帰ってきた。たとえば、中国の会社制度。中国で(株式)会社に相当するのが「公司(コンス)」である。あちらこちらに「公司」と書かれた看板を見かけた。わたしの偏見かもしれないが、社会主義の国においては、「公司」のような企業は国に属するものであって、国営企業のような体裁を採るのだと考えていた。しかし、向うの国で買い求めてきた法律の本をパラパラめくるとわが国の株式会社法にあるような「有限責任」原則等についてきちんと記述されている。そもそも株式会社のような形態の企業組織は、資本主義経済社会の賜物ではなかったか?
成都から重慶へは、高速バスで移動した。バスターミナルに行き、時刻表を見て驚いた。出発の時間ごとにバスの料金が違っているのである。しかも、バス会社まで・・・。出発・到着時刻、バス会社の表示の横には、ミネラルウォーターがつくだの、ビデオの上映があるだの、トイレがついているだのという風にバスで提供されるサービスが事細かに書かれている。どうも、それによって料金が異なっているのである。さまざまなオプションとさまざまな料金。その中から自分の予算と都合によってバスを選択することになる。わが国でバスに乗るとすれば、おそらく料金はほとんど変わらない上に同一路線に複数のバス会社が「競争」しているのは、珍しいのではないか?しかも、サービスの内容に至っては「横並び」。
これらを「社会主義的市場経済」というのかもしれないが、どう体系的に理屈づけているのだろうか。謎である。以前、中国の弁護士である留学生から聞いたことがある。「日本の法律を勉強するときには、中国で学んだ法律の知識をすべて忘れた方がいい」と。そういえば、わが国では近代市民法として位置づけられている民法・商法は、中国では経済法といって、最近発達が著しい消費者保護法や不当競争防止法と同じように扱われていたよな。