[文化通信]原稿・「著作物再販制度に関する公取委の姿勢表明に寄せて」

 先月二三日、公取委が「著作物再販制度の取扱いについて」と題する文書を公表した。この公取委の姿勢表明により、ほぼ十年に及んだ著作物再販制度をめぐる議論に一応の終止符が打たれることとなった。この文書は、@当面著作物再販制度を存置すること、Aその対象品目は従来どおり六品目に限ること、B消費者利益向上のために制度の弾力的運用を要請すると同時に、その実効を検証するための協議会を設置することを内容としている。

 競争政策の観点からは、再販制度を廃止し、著作物の流通・取引についても競争が機能するための条件を可能な限り整えていかなければならない。公取委並びにその研究会は、これまで基本的にこのような方向性を示してきたところである。しかし、全面的に市場メカニズムに委ねた場合の影響については、昨年十二月の「著作物再販制度の見直しに関する検討状況及び意見照会について」に見られるように評価が分かれており、予め公表された意見照会結果も「国民的合意が形成されるに至っていない」と評価せざるを得ないものであった。それゆえ、最終的にはBのような一種の弊害規制に止まることとなったが、@Aを含めこのような結論は、これまでの経緯から十分予想され得るものであった。

 最後まで評価が分かれた論点は、いわゆる文化の振興・普及ないしは公共性に関するものであった。「評価が分かれた」といっても、制度改廃の影響について、関係業界により主張された不安をあおるような感覚的・情緒的なシミュレーションをいかに取扱うかであり、文化性・公共性といった価値自体の評価が分かれていたわけではなかった。いずれにしても、著作物再販制度の評価にあたり、これが文化性・公共性を実現する手段として、(理論上ではなく)事実として位置付けることが本当にできるのか、また、そのような価値は再販制度という競争を制限するシステムによってしか実現できないものなのか、という問いかけは常に発せられなければならない。

 もしかすると、著作物再販制度は何らかの形で文化性・公共性を実現する手段として位置付けることができるのかもしれない。しかし、制度の趣旨を理解しない運用のため、期待された役割を果たしていないばかりか、弊害さえも露わになっているのが現状である。文化性・公共性の実現は、再販制度によって得られる(とおぼしき)効用(商品企画の多様性、品揃えの確保、戸別配達システム等)を通じてなされるべきものでは本来なく、より直接的な方法により実現されるのが筋である。私自身、再販制度によりもたらされる効用よりも弊害多きゆえ、制度そのものの必要性すら感じないが、現状において、この制度を有意義なものとして機能させるには、その前提として制度の趣旨を踏まえつつ、その直接的効用をできる限り適確に発揮させることである。真の弊害規制とは、単に弊害を除去するのではなく、前提となっている制度の適切な実施と相俟って行われるべきで、公取委には消費者利益向上のため「制度の弾力的運用」のみならず、著作物の流通・取引活動の適正化・透明化のために実態の監視と厳格な法の運用を望みたい。

(慶應義塾大学産業研究所 石岡 克俊)



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