第2 特許ライセンス契約に関する独占禁止法第23条の考え方等
1 独占禁止法第23条は「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない」と規定するところ、特許ライセンス契約に伴う制限の中には、実施地域、実施期間、実施分野の制限など特許法等による権利の行使とみられる行為が関係するものも存在し、また、これらの行為を通じて他の事業者の事業活動が制限されることがあるので、これらの行為については、まず、同条の規定に照らした検討が必要となる。特許権者が特許を他の者にライセンスする又はライセンスをしないこと、権利侵害者に対して差止め請求訴訟を提起することなど、特許法等による権利の行使とみられる行為についても、同様である。
2 独占禁止法第23条は、@特許法等による「権利の行使と認められる行為」には独占禁止法の規定が適用されず、独占禁止法違反行為を構成することはないこと、A他方、特許法等による「権利の行使」とみられるような行為であっても、それが発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価されず、独占禁止法が適用されることを確認する趣旨で設けられたものであると考えられる。
例えば、外形上又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても、当該行為が不当な取引制限や私的独占の一環をなす行為として又はこれらの手段として利用されるなど権利の行使が藉口していると認められるときなど、当該行為が発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、特許法等による「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用されるものと考えられる。
また、上記以外の場合において、外形上又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても、行為の目的、態様や問題となっている行為の市場における競争秩序に与える影響の大きさを勘案した上で、個別具体的に判断した結果、技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価できず、独占禁止法が適用されることがあり得る。
3 独占禁止法第23条の規定に照らして検討した結果、独占禁止法の適用があるとされる場合には、第3又は第4の考え方に従って不当な取引制限、私的独占等又は不公正な取引方法に該当するか否かの検討が行われることとなる。
4 また、権利の行使についての判断に当たっては、権利の消尽にも留意する必要がある。すなわち、特許権者は特許発明の実施として、製造・使用に関する権利だけでなく、販売に関する権利も占有しており、特許権者から個別にライセンスを受けていない者が特許製品を販売する行為も形式的には特許権を侵害する行為に該当するようにみえるが、特許製品が権利者の意思により適法に拡布された場合には、国内においては当該製品に関する限り、特許権は既にその目的を達しており、その製品について特許権は消尽しているものと解される。したがって、いったん権利者の意思により適法に拡布された特許製品の販売に関する制限については、独占禁止法上、一般の製品の販売に関する制限と同様に取り扱われることとなる。
5 なお、ノウハウについては、他の財産権又は財産的価値を有するものと同様、独占禁止法の規律に服するものであるが、ノウハウは、秘密性を有する知的財産であるところから、ノウハウの所有者のノウハウ自体の使用・収益・処分に関する行為や、ノウハウに基づく一定の行為について、独占禁止法上の問題を検討する際には、この点を踏まえて行われることになる。
また、ノウハウについては、特許と対比すると、その技術的範囲が不確定であること、保護の排他性が弱いこと、保護期間が不確定であること等の特質を有するものであり、ノウハウライセンス契約の市場における競争秩序に及ぼす影響の判断に当たっては、このようなノウハウの特質を踏まえて判断することも必要と考えられる。
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