新世紀経済社会における消費者・消費者問題を考える

―序・問題意識の共有のために―

(慶應義塾大学産業研究所 石岡 克俊)


【序】

 世界は、新しい世紀を迎えました。新世紀、わたしたちが生活する社会はどのような変化の過程にあり、またどのようにしてその変化を自らの豊かな生活に結び付けていくことができるのか――。
 「二〇〇一年神奈川県消費者のつどい」のテーマ「―二十一世紀―生き生きとくらしていくために〜消費者の権利の確立をめざして〜」は、こうした問題意識を皆さんと共有することからはじまります。
 わたしたちが、いま生きている「二〇〇一年」という年は、形式的・名目的には「二つの節目」を意味しています。ひとつは、「第三・千年紀」のスタートとしての意味。いまひとつは、二十一世紀という新たな世紀のはじまりとしての意味です。いま、いろいろな分野でこの「二〇〇一年」という節目を意義付け、未来を語るという作業が行われています。この新たな節目の年に、ここで講演する機会を得たわたしは、前者ないしは後者のいずれかの意味において、消費者・消費者問題について何らかの意義付けをしなければならないのかもしれません。しかし、残念ながらいまのわたしには、このような壮大な歴史的パラダイムを描き、また未来を語るほどの時間も能力も持ち合わせておりません。
 ですから、わたしはこれから述べる二つの視点から、本年の「つどい」のテーマにある、消費者がより豊かで「生き生き」した暮らしを築いていく方策を皆さんとともに考えていきたいと思います。

 わたしは、二〇〇一年という二つの意味でのはじまりの年に身を置いて、消費者ないしは消費者問題の将来の見通し、そしてこれらの問題についての考え方を語ろうと思います。しかし、「第三・千年紀」のはじまりであるからといって、つぎの一千年を鳥瞰するのではなく、二十一世紀のはじまりだからといって、つぎの百年を臨むものでもありません。ここで皆さんにお話する講演の趣旨及び射程は、たかだか二〇世紀の最後の十数年間に顕著に見られた経済・社会の変化と、それに伴う消費者自身の認識の変化、そして消費者問題の推移の観察を一つの手がかりにして、できるだけ先を眺めてみようという試みです。
 そもそも、消費者ないしは消費者問題に対する具体的な認識がなされたのは、前世紀中盤を過ぎたころ、一九六〇年前後からのこと。その意味では、消費者・消費者問題に対する分析や検討は、二十世紀の積み残しの課題と見ることが出来るかもしれません。他方、それと同時に、問題そのものの性質上、われわれの暮らしと不可分の関係を持ち、形を変えながらわたしたちの生活に必然的に関わってくる問題であるともいえるのです。また、消費者・消費者問題の捉え方は、経済・社会の構造、具体的な消費者問題の内容、消費者の意識などの変化に伴い、考え方についての変化が見られます。このような意味で、今世紀における消費者・消費者問題を考えるには、当然、これらの要素との組み合わせで検討しなければなりません。
 このような問題意識を前提に、わたしは講演のテーマを「新世紀経済社会における消費者・消費者問題を考える」としました。わたしは、この問題を分析・検討するにあたり、まず最初に、二〇世紀最後の十数年間にわが国において顕著に見られた経済・社会の変化について、そしてこれらの変化が消費者・消費者問題の捉え方にどのような影響をもたらしたかについての検討したいと思います(【一】)。その上で、二〇世紀最後の数十年間にわが国において展開された消費者・消費者問題に関する議論を「消費者の権利」を中心として概観、整理し、わが国における経済・社会の変化と関連付けて、今世紀経済社会における消費者のすがた、消費者問題の将来の見通し、そしてこれらの問題に対する見方を述べ、皆さんと共に考える材料を提供していきたいと思います(【二】・【三】)。

【一】 新世紀経済社会はどんな社会か?

【二】 消費者・消費者問題の現在

【三】 「消費者の権利」の確立(?)

【四】 おわりに――いくつかの期待と提案


* このメモは、二〇〇一年二月一九日に行われる講演に先立ち、皆さんと問題意識を共有するために、わたしなりの問題意識と消費者・消費者問題に対するアプローチ(接近方法)を簡単に述べたものです(【序】)。また、【一】〜【四】には、講演においてお話ししたいと考えている主要な内容を列挙しました。当日の講演では、ここに記したメモに加え、さらにいくつかの実証的なデータを示しながら報告する予定です。

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