慶應義塾大学産業研究所 未来開拓プロジェクト

 


日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業
複合領域 「アジア地域の環境保全」研究推進委員会

 

1. 研究の目的

 この研究の目的は、アジアにおける経済発展と環境保全の両立を目指して、省エネルギー・環境保全の技術がアジア諸国の実経済社会に定着する可能性を明らかにすることにある。工学系の研究者がによってなされた省エネ・環境保全の未来技術に関する優れた研究を実社会に定着させるためには、環境税・補助金・国際協調の共同実施(J1)などの社会の枠組みを変える必要もある。そのため当プロジェクトでは工学系および経済学系研究者のみならず、農学・政治学・疫学の研究者を加え、情報のギャップを埋めつつ、持続的発展という共通目的を遂行していく。

 

2. 研究の内容

(1)バイオブリケットの燃焼実験と追跡調査瀋陽市近郊の石炭置き場
 中国では小型ストーカ型ボイラから家庭暖房用ボイラにいたるまで、石炭を広範に利用しており、石炭燃焼から発生するSOx排出量の成都市に導入したバイオブリケット実験装置削減が環境改善の大きな課題として取り上げられている。我々はSOxの排出抑制のための脱硫技術として、脱硫率は60%と高くはないものの一番安上がりで広範囲に普及する可能性を秘めているバイオブリケットに注目し、中国内陸部の大都市;遼寧省瀋陽市と四川省成都市にバイオブリケット実験装置を導入した。この2都市を共同研究の拠点として、家庭用と工業用のバイオブリケットの燃焼実験と追跡調査を行っている。



(2)バイオブリケット燃焼灰を用いた土壌改良・植林実験瀋陽・カルチン平原
 バイオブリケットが中国各地に普及していくためには、バイオブリケットの燃焼によって発生する副産物=燃焼灰を土壌改良剤として有効利用できることが望ましい。本プロジェクトでは瀋陽市康平県のトウモロコシ畑と防砂林およびカルチン砂漠南端に実験候補地を確保し、燃焼灰を利用して畑の改良と防風・防砂林の植林に関する実験を行っている。これによって燃焼灰の土壌改良剤としての有用性を確認し、中国の広範囲に広がるアルカリ塩害土壌の土地改良に利用していく。

(3)脱硫装置導入による経済効果のシミュレーション分析アルカリ塩害土壌
 脱硫装置の導入は環境改善効果とともに、経済効果も生み出す。そこで各種脱硫装置(湿式石灰,半乾式脱硫法等)からバイオブリケットにいたる脱硫方式の原理、プラントコスト、運転費用、運転員数等に関するデータベースと中国の地域別の環境・経済データベースを別途作成し、計量経済モデルを用いて脱硫装置の導入による経済効果をシミュレーション分析する。

(4)アジア9ヶ国環境分析用の国際産業連関表の作成と多国間経済モデルの構築
 本プロジェクトでは中国を共同研究の拠点としているが、環境保全技術を導入する余地はアジア各国に存在する。そこで本プロジェクトでは中国以外にも、アジア諸国に脱硫技術が導入された時に、国内・国外にどのような経済効果をもたらすか、脱硫技術を導入するためにはどのような経済政策が必要かをシミュレーション分析していく。この分析のため、アジア9ヶ国(中国・台湾・韓国・タイ・インドネシア・フィリピン・マレーシア・シンガポール・日本)の環境分析用の国際産業連関データベースを作成し、多国間アジア経済モデルを構築してゆく。

(5)既存の技術と21世紀型未来技術のエネルギーとCO2に関するLCA分析
 SOx問題を解決してきた我が国といえども、エネルギー問題には手がつけられていない状態である。そこで省エネルギーとCO2削減の観点から、?エネルギー変換部門(電力,ガス,石油等)、?素材産業部門(鉄,セメント,紙パルプ等)、?運輸部門(自動車等)、?民生部門(家電等)、?廃棄物・排熱部門(カスケーディング等)、?農林水産部門を取り上げ、既存の対処療法的な技術から21世紀型未来技術までを視野に入れ、エネルギーとCO2に関するLCA分析を行う。

3. 研究の方法

 アジアの経済サイズは、我が国の1人当たりGDP34万ドルから発展途上国の5〜6万ドルまで大きく分布している。その中で中国を代表するとする途上国では、エネルギー効率の悪さ、環境保全対策の遅れが目立っている。したがって我が国の既存技術が途上国に導入されれば、それだけでも相当の効果が見込まれる。我々はプロジェクト前半の3年間で、我が国の既存技術とりわけ脱硫、省エネ技術の途上国への定着とその経済効果を分析することを目的に、図1のフロー図に示す研究成果を上げることにしている。


<図1> 先進国技術導入のSOx低減効果と経済効果


 しかし環境に関する京都会議やブエノスアイレス会議の場でも見られるように先進国自体も21世紀の持続的発展への展望は暗く、化石エネルギーやCO2の削除はほど遠い現状である。したがって、先進国の技術移転だけではアジアの持続的発展は到底達成できない。そのためプロジェクトの後半では未来技術として考えられているものを洗い出し、それぞれの省エネ・CO2削減等につき、LCA的評価と実経済社会への定着性を経済モデルで分析し、下の図に示す研究成果を最終的に完成させる。



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