第3 並行輸入の不当阻害
◇ 1 考え方
  • (1)
     総代理店契約が輸入品について行われる場合において、第三者が契約当事者間のルートとは別のルートで契約対象商品を輸入することがある(以下これを「並行輸入」といい、商標権を侵害しないいわゆる真正商品の輸入を前提としている。)。
     並行輸入は一般に価格競争を促進する効果を有するものであり、したがって、価格を維持するためにこれを阻害する場合には独占禁止法上問題となる。
  • (2)
     並行輸入品と称する商品が真正商品でなく偽物である場合には、商標権侵害を理由にその販売を差し止めることができる。このほか、次のような場合において、商標の信用を保持するために必要な措置を執ることは、原則として独占禁止法上問題とはならない。
     @ 商品仕様や品質が異なる商標品であるにもかかわらず、虚偽の出所表示をすること等により、一般消費者に総代理店が取り扱う商品と同一であると誤認されるおそれのある場合
     A 海外で適法に販売された商標品を並行輸入する場合に、その商品が劣化して消費者の健康・安全を害すること等により、総代理店の取り扱う商品の信用が損なわれることとなる場合
  • (3)
     国内品について並行輸入の不当阻害と同様の行為が行われる場合においても基本的な考え方は上記と同様であるので、以下の考え方が適用される。

    ◇ 2 独占禁止法上問題となる場合
  • (1) 海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害
     並行輸入業者が海外の流通ルートから真正商品を入手してくることを妨げて、契約対象商品の価格維持を図ろうとすることがある。この様な行為は、総代理店が取り扱う商品と並行輸入品との価格競争を減少・消滅させるものであり、総代理店制度が機能するために必要な範囲を超えた行為である。
     したがって、総代理店又は供給業者が以下のような行為をすることは、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引)又は15項(競争者に対する取引妨害))。
     @ 並行輸入業者が供給業者の海外における取引先に購入申込みをした場合に、当該取引先に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさせること
     A 並行輸入品の製品番号等によりその入手経路を探知し、これを供給業者又はその海外における取引先に通知する等の方法により、当該取引先に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさせること
  • (2) 販売業者に対する並行輸入品の取扱い制限
     並行輸入品を取り扱うか否かは販売業者が自由に決定すべきものである。総代理店が並行輸入品を取り扱わないことを条件として販売業者と取引するなど、販売業者に対し並行輸入品を取り扱わないようにさせることは、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項又は15項)。
  • (3) 並行輸入品を取り扱う小売業者に対する契約対象商品の販売制限
     卸売業者が総代理店から仕入れた商品をどの小売業者に販売するかは卸売業者が自由に決定すべきものである。卸売業者たる販売業者に対し、並行輸入品を取り扱う小売業者には契約対象商品を販売しないようにさせることは、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項又は15項)。
  • (4) 並行輸入品を偽物扱いすることによる販売妨害
     商標権者は、偽物の販売に対しては商標権侵害を理由として、その販売の差し止めを求めることができる。
     しかし、並行輸入品を取り扱う事業者に対し、十分な根拠なしに当該商品を偽物扱いし、商標権の侵害であると称してその販売の中止を求めることは(注1)、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定15項)。
    (注1)
     このような行為が行われると、当該商品が真正商品であり、並行輸入業者がその旨を照明できるときであっても、当該小売業者は、訴えられること自体が信用を失墜するおそれがあるとして並行輸入品の取扱いを避ける要因となる。
  • (5) 並行輸入品の買占め
     小売業者が並行輸入品の販売をしようとすると、総代理店が当該小売業者の店頭に出向いてこれを買い占めてしまい、これによって並行輸入品の取引が妨げられることがあるが(注2)、このような行為が契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定15項)。
    (注2)
     小売業者としては、例えば、一般消費者向けに広告しているのに総代理店に買い占められると、その購入を目的に来店した消費者からおとり広告ではないかとのクレームがつき、次の販売についての信用を失うことになる場合がある。また、小売業者にとって並行輸入品を販売しないようにとの心理的圧迫となり、この取扱いを避ける要因となる。
  • (6) 並行輸入品の修理等の拒否
     総代理店は自己の供給する数量に対応して修理体制を整えたり、補修部品を在庫するのが通常であるから、並行輸入品の修理に応じることができず、また、その修理に必要な補修部品を供給できない場合もある。したがって、例えば、総代理店が修理に対応できない客観的事情がある場合に並行輸入品の修理を拒否したり、自己が取り扱う商品と並行輸入品との間で修理等の条件に差異を設けても、そのこと自体が独占禁止法上問題となるものではない。
     しかし、総代理店若しくは販売業者以外のものでは並行輸入品の修理がい著しく困難であり、又はこれら以外のものから修理に必要な補修部品を入手することが著しく困難である場合において、自己の取扱商品でないことのみを理由に修理若しくは補修部品の供給を拒否し、又は販売業者に修理若しくは補修部品の供給を拒否するようにさせることは、それらが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定15項)。
  • (7) 並行輸入品の広告宣伝活動の妨害
     並行輸入品の広告宣伝活動の態様によっては商標権を侵害したり、また、広告宣伝の類似性などから総代理店の営業との間に混同が生じて不正競争防止法に違反することがある。このような場合には当該広告宣伝活動の中止を求めることができる。
     しかし、このような自由がないのに、総代理店がその取引先である雑誌、新聞等の広告媒体に対して、並行輸入品の広告を掲載しないようにさせるなど、並行輸入品の広告宣伝活動を妨害することは、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項又は15項)。

    流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
    経済法関連法令・ガイドライン
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