第5 小売業者による優越的地位の濫用
◇ 1 考え方
  • (1)
     事業者が、どのような条件で取引するかは基本的には取引当事者間の自主的な判断にゆだねられるものであるが、小売業者が、納入業者に対し取引上優越した地位にある場合において、その地位を利用して、納入業者に対し押し付け販売、返品、従業員等の派遣の要請、協賛金等の負担の要請又は多頻度小口配送等の要請を行う場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題を生じやすい。
     なお、独占禁止法による優越的地位の濫用の規制は、このような行為によって小売業者巻あるいは納入業者間等における公正な競争が阻害されるおそれがある場合に当該行為を排除しようとするものである。
  • (2)
     「小売業者が納入業者に対し取引上優越した地位にある場合」とは、当該納入業者にとって当該小売業者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、当該小売業者の要請が自己にとって著しく不利益なものであっても、これを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、当該小売業者に対する取引依存度、当該小売業者の市場における地位、販売先の変更可能性、商品の需給関係等を総合的に考慮する。
  • (3)
     以下では小売業者の納入業者に対する特定の行為について独占禁止法上違法となる場合を示しているが、購入者としての地位を利用して卸売業者やユーザーが、同様の行為を行う場合にも、基本的には同様の考え方によって、違法性が判断される。
  • (4)
     取引上の優越的地位の濫用は、一般的には、不公正な取引方法として一般指定14項(優越的地位の濫用)によって規制されるが、百貨店・スーパー等の大規模な小売業者による納入業者に対する行為については、一般指定14項のほかに「百貨店業における特定の不公正な取引方法」(昭和29年公正取引委員会告示第7号。一定以上の売場面積の店舗を持ち、一般消費者が日常使用する多種類の商品を販売する小売業者が対象。)によっても規制される。
     なお、小売業者と納入業者との取引が、下請代金支払遅延等防止法にいう親事業者と下請事業者の取引に該当する場合であって、小売業者のブランドを表示した商品(いわゆるプライベート・ブランド商品)を製造し、納入する場合など、物品の製造委託に該当する場合には、同法の規制の対象となる。

    ◇ 2 押し付け販売
  • (1) 考え方
     小売業者は、納入業者に対して、納入取引関係を利用して自己の販売する商品やサービスの購入を要請することがある。優越的地位にある小売業者が納入業者に対して商品・役務の購入を要請する場合には、納入業者は、購入を希望しないものであっても、今後の納入取引に与える影響を懸念して購入せざるを得ないこととなり、優越的地位の濫用として問題となる。
  • (2) 独占禁止法上問題となる場合
     取引上優越した地位にある小売業者が、納入業者に対し、次のような方法によって時小股は自己の指摘するものから商品や役務を購入させる場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を納入業者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
     @ 仕入担当者等の仕入取引に影響を及ぼしうるものが購入を要請する場合
     A 納入業者に対し、組織的又は計画的に購入を要請する場合
     B 購入する意思がないとの表明があった場合、又はその表明がなくとも明らかに購入する意思がないと認められる場合に、重ねて購入を要請し、又は商品を一方的に送付する場合
     C 購入しなければ今後の納入取引に影響すると受け取られるような要請をし、又はそのように受け取られるような販売の方法を用いる場合

    ◇ 3 返品
  • (1) 考え方
     返品は、新規商品の参入を促進する、あるいは地域的な需給に即応させる等の利点を有する場合もあるが、優越的地位にある小売業者が一方的な都合で返品を行う場合には、納入業者に不当に不利益を与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい(注12)。
     (注12)返品の条件について取引当事者間で明確になっていない場合には、こうした場合には、こうした問題を生じやすく、小売業者においては、その条件について納入業者との間であらかじめ明確にすることが望ましい。
  • (2) 独占禁止法上問題となる場合
     取引上優越した地位にある小売業者が、納入業者に対し購入した商品を返品すること(いわゆる買取商品の返品であり、購入契約を委託販売契約に切り替え、又は商品を取り替える等実質的に返品となる行為を含む。以下同じ。)は、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を納入業者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
     @ どのような場合に、どのような条件で返品するか、取引当事者間で明確になっていない場合であって、納入業者にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合(注13)
     A 次のような返品を行い、納入業者にとって不利益を与えることとなる場合(注13)(注14)
     a 納入業者の責に帰すべき事由によらない汚損商品、毀損商品等の返品等の返品
    (例)
    ロ展示に用いたために汚損した商品の返品
    ワ小売用の値札が貼られており、商品を傷めることなく剥がすことが困難な商品の返品
    ン小売業者がメーカーの定めた賞味期限とは別に独自にこれより短い販売期限を定め、この販売期限が経過したことを理由とする返品
     b 小売業者のプライベート・ブランド商品の返品
     c 月末又は期末の在庫調整のための返品
     d 小売業者の独自の判断に基づく店舗又は売場の改装や棚替えに伴う返品(注16)
     なお、返品については、「不当な返品に関する独占禁止法上の考え方」(昭和62年4月21日公表)を併せて参照されたい。
    (注13)
    ロ返品によって通常生じる損失を小売業者が負担し、納入業者の同意を得て行う場合、
    ワ納入された商品が納入業者の責に帰すべき事由により汚損し、毀損し、その他欠陥のあるものであった場合、及びン納入された商品が注文された商品と異なっていた場合は、不利益を与えることとなるものではなく、違法とならない。
    (注14)
     Aの場合は、返品の条件について取引当事者間で明確になっている場合であっても違法となるケースである。
    (注15)
     消費者が通常、商品購入後賞味するまで一定期間を要することを考慮して、短期間の賞味期限を残して返品する場合であって、その条件が取引当事者間であらかじめ明確になっている場合を除く。
    (注16)
     季節商品の販売時期の終了時の棚替えに伴う返品であって、その条件が取引当事者間であらかじめ明確になっている場合を除く。

    ◇ 4 従業員等の派遣の要請
  • (1) 考え方
     メーカーや卸売業者が百貨店・スーパー等の小売店に対して、自社商品又は自己が納入した商品の販売用のためにその従業員等を派遣する場合がある。こうした従業員等の派遣は、メーカーや卸売業者が、小売業者の店舗で消費者に対して直接に、自社商品又は自己が納入した商品の広告宣伝と水晶販売が行えることから行う側面と、小売業者が自己の商品知識や販売力、労働力の不足を補うため要請する側面の両面がある。
     従業員等の派遣は、メーカーや卸売業者にとって消費者ニーズの同行を直接把握できる、小売業者にとって専門的な商品知識の不足が補われる等の利点を有している場合があるが、優越的地位にある小売業者が一方的な都合で派遣を要請する場合には、派遣するメーカーや卸売業者に不当に不利益を与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい(注17)。
    (注17)
     特に、従業員等の派遣の条件について取引当事者間で明確になっていない場合には、こうした問題を生じやすく、小売業者においては、派遣された従業員等の業務内容、労働時間、派遣期間等の派遣の条件について納入業者との間であらかじめ明確にすることが望ましい。
  • (2) 独占禁止法上問題となる場合
     取引上優越した地位にある小売業者が、納入業者に対し、商品の販売その他の業務のためにその従業員等を派遣させることは、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を納入業者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
     なお、小売業者が、納入業者に対し、従業員等の派遣に替えて、これに相当する人件費を負担させる場合も同様である。
     @ どのような場合に、どのような条件で従業員等を派遣するかについて取引当事者間で明確になっていない場合であって、納入業者にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合(注18)
     A 従業員等の派遣を通じて納入業者が得る直接の利益に照らして、納入業者に不利益を与えることとなる場合(注18)(注19)
    (例)
    a 派遣された従業員等に棚卸、棚替え、社内事務等の納入商品の販売促進と直接関係がない業務を行わせ、納入業者に不利益を与えることとなる場合
    b 派遣された従業員等が納入商品の販売に当たることによって、納入商品の販売量が増大するなど納入業者が得る直接の利益に比較して、派遣のための費用が大きい場合
    (注18)
     従業員等の派遣のために通常必要な費用を小売業者が負担し、納入業者の同意を得て行う場合は、不利益を与えることとなるものではなく違法とはならない。
    (注19)
     Aの場合は、従業員等の派遣の条件について取引当事者間で明確になっている場合であっても違法となるケースである。

    ◇ 5 協賛金等の負担の要請
  • (1) 考え方
     小売業者が納入業者に対して、催事、広告塔の費用負担のためのいわゆる協賛金など、金銭的な負担(以下、「協賛金等」という。)を要請することがある。小売業者と納入業者が共同して商品キャンペーンのための催事や広告を行う場合、そのための費用について協賛金等を負担することが、納入商品の販売促進につながるなど納入業者にとっても直接の利益となる場合もあるが、優越的地位にある小売業者が一方的な都合で納入業者に不当に不利益を与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として、問題を生じやすい(注20)。 (注20)
     取引当事者間で協賛金等の負担の条件について明確になっていない場合には、優越的地位の濫用の問題を生じやすく、小売業者においては、その条件について納入業者との間で明確にすることが望ましい。
  • (2) 独占禁止法上問題となる場合
     取引上優越した地位にある小売業者が、納入業者に対して協賛金等を負担させることは、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を納入業者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
     @ 協賛金等の負担額およびその算出根拠、使途等について、取引当事者間で明確になっていない場合であって、納入業者にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合
     A 次のような方法により協賛金等を負担させ、納入業者に不利益を与えることとなる場合(注21)
    a 納入業者の商品の販売促進に直接寄与しない催事、売場の改装、広告等のための協賛金等を要請すること
    b 納入業者にとって商品の販売促進やコスト削減に寄与するなど納入業者が得る直接の利益の範囲を超えて協賛金等を要請すること
    c 小売業者の決算対策のために協賛金等を要請すること
    d 一定期間に一定の販売量を達成した場合に小売業者にリベートを供与することをあらかじめ定めていた場合において、当該販売量を達成しないのに当該リベートを要請すること
    e 納入業者が負うべき責任がないにもかかわらず、納入業者が商品を納入した後において、その商品の納入価格の値引きを要請すること
    (注21)
     2の場合は、協賛金等の条件について取引当事者間で明確になっている場合であっても違法となるケースである。

    ◇ 6 多頻度小口配送等の要請
  • (1) 考え方
     最近、大規模な小売業者は、発注のオンライン化、物流センターの設置等資仕入体制のシステム化を進めているが、これに関連して、例えば、納入業者に多頻度小口配送(配送の小口化とそれに伴う配送回数の増加)を要請したり、システム化の費用として納入業者に要請することがある。
     システム化への取り組みは、受発注業務、物流業務の合理化を促進し、消費者ばかりでなく納入業者にとっても利益となる場合がある。しかし、優越的地位にある小売業者が、一方的な都合で納入業者に対し多頻度小口配送の要請を行ったり、システム化に伴って生じる費用について具体的な負担の根拠や割合を示さないまま、例えば、受発注オンライン・システムの利用料や物流センターの使用量として納入業者に負担を要請する場合には、納入業者に不当に不利益を与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい(注22)。
    (注22)
     小売業者においては、仕入体制のシステム化に伴って生じる費用の負担や多頻度小口配送に伴う負担を納入業者に一方的に負わせることのないよう、その条件について納入業者との間で十分に協議することが望ましい。
  • (2) 独占禁止法上問題となる場合
     取引上優越した地位にある小売業者が、納入業者に対して多頻度小口配送を要請し、又は仕入体制のシステム化に伴って生じる費用の負担を要請することは、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を納入業者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
     @ 多頻度小口配送を要請し、これによって納入に要する費用が大幅に増加するため納入業者が納入単価の引上げを求めたにもかかわらず、納入業者と十分協議することなく一方的に、通常の対価相当と認められる(注23)単価に比して著しく低い納入単価で納入させることとなる場合
     A 仕入体制のシステム化に伴って生じる費用の負担額及びその算出根拠等について納入業者と十分協議することなく一方的に負担を要請し、納入業者に不利益を与えることとなる場合
     B 仕入体制のシステム化に伴って生じる費用を納入業者が得る利益の範囲を超えて一方的に納入業者に負担させる場合(注24)
    (注23)
     「通常の対価相当と認められる」かどうかは、従前の納入単価、同様の多頻度小口配送の条件で取引している他の納入業者の納入単価等から総合的に判断される。
    (注24)
     Bの場合は、費用負担の条件について取引当事者間で明確になっている場合であっても違法となるケースである。

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