第2 非価格制限行為
◇ 1 考え方
(1)
メーカーは直接の取引先のみならず末端の小売段階に至るまで、自社商品を取り扱う流通業者に対して、各種のマーケティングを行う場合があり、メーカーの流通業者に対するこのようなマーケティングについては、各種の経営上の利点が指摘されているが、メーカーがマーケティングの手段として流通業者の取扱商品、販売地域、取引先等の制限(以下「非価格制限行為」という。)をする場合には、次のような問題を生じる場合がある(注3)。
@ 流通業者の創意工夫による事業活動を妨げる。
A 流通業者のメーカーに対する依存性を高め、流通業者がメーカーと協調的行動をとることによって末端価格が維持される。
B いわゆるブランド間競争(メーカー間の競争及び異なるブランドの商品を取り扱う流通業者間の競争)やブランド内競争(同一ブランドの商品を取り扱う流通業者間の競争)が減少・消滅する。
C メーカーや流通業者が新規に参入しようとする場合の障壁が高くなる。
D 消費者の商品選択が狭められる。
- (注3)特に、流通業者の取扱商品の制限については、上記のような問題を生じやすい事から、流通業者がより消費者ニーズに適合した商品をその自主的な判断によって取り扱うことができるようになっていることが望ましい。
(2)
メーカーの流通業者に対する非価格制限行為については、一般的に、その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響が異なる。すなわち、非価格制限行為の中には、@行為類型のみから違法と判断されるのではなく、個々のケースに応じて、当該行為を行うメーカーの市場における地位等から、新規参入者など競争者を排除することとならないかどうか、当該商品についての価格競争を阻害することとならないかどうかなど、市場の競争に与える影響から違法となるか否かが判断されるもの及びA通常、価格競争を阻害するおそれがあり、当該行為を行うメーカーの市場における地位を問わず、原則として違法と判断されるものがある。
(3)
メーカーが非価格制限行為を行っているかどうかについては、前記第一の2で述べた再販売価格についての拘束と同様、メーカーが流通業者に対し契約等で制限している場合だけでなく、メーカーの要請に従わない流通業者に対し経済上の不利益を課すなど何らかの人為的手段を用いることによって制限の実効性が確保されている場合にも、制限行為が行われていると判断される。
◇ 2 流通業者の競争品の取扱に関する制限
(1)
流通業者の競争品の取扱に関する制限として、例えば、
@ メーカーが流通業者に対して、自社商品のみの取扱いを義務付けること
A メーカーが流通業者に対して、競争者の商品の取扱いを制限すること
B メーカーが流通業者に対して、自己の商品と競争関係にある輸入品など特定の商品又は特定事業者の商品の取扱いを禁止し、又は制限すること
C メーカーが流通業者の取扱い能力の限度に近い販売数量の義務づけを行うことによって、競争品の取扱いを制限すること
(2)
市場における有力なメーカー(注4)が競争品の取扱い制限を行い、これによって新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合(注5)には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定11項(排他条件付取引)又は13項(拘束条件付取引))。
- (注4)「市場における有力なメーカー」と認められるかどうかについては、当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様であり、地理的条件、取引先との関係等から相互に競争関係にある商品の市場)におけるシェアが10%以上、又はその順位が上位3位以内であることが一応の目安となる。
ただし、この目安を越えたのみで、その事業者の行為が違法とされるものではなく、当該行為によって「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」に違法となる。
市場におけるシェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以下である下位事業者や新規参入者が競争品の取扱い制限を行う場合には、通常、新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれはなく、違法とはならない。
なお、「市場における有力なメーカー」と認められるかどうかについては、以下第2部において同様である。
- (注5)「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」に当たるかどうかは、以下の事項を総合的に考慮して判断することになる。
- @ 対象商品の市場全体の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
- A 当該制限を実施するメーカーの市場における地位(シェア、順位、ブランド力等)
- B 制限の対象となる流通業者の数及び市場における地位
- C 当該制限が流通業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
上記@の市場全体の状況としては、他のメーカーの行動も考慮の対象となる。例えば、複数のメーカーがそれぞれ並行的に競争品の取扱い制限を行う場合には、1メーカーのみが行う場合と比べ市場全体として新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれが生じる可能性が高い。
なお、「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」に当たるかどうかについては、以下第2部において同様である。
(3)
上記(2)の考え方は、メーカーが卸売業者をして小売業者の競争品の取扱いを制限させる場合にもあてはまる(一般指定13項)。
◇ 3 流通業者の販売地域に関する制限
(1)
流通業者の販売地域に関する制限として、例えば、
@ メーカーが流通業者に対して、一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること(主たる責任地域を設定するのみであって、下記B又はCにあたらないもの。以下「責任地域制」という。)
A メーカーが流通業者に対して、店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり、販売拠点の設置場所を指定すること(販売拠点を制限するのみであって、下記B又はCにあたらないもの。以下「販売拠点制」という。)
B メーカーが流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること(以下「厳格な地域制限」という。)
C メーカーが流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること(以下「地域外顧客への販売制限」という。)
等が挙げられる。
(2) 責任地域制及び販売拠点制
メーカーが商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため、流通業者に対して責任地域制や販売拠点制をとることは、厳格な地域制限又は地域外顧客への販売制限に該当しない限り、違法とはならない。
(3) 厳格な地域制限
市場における有力なメーカー(注6)が流通業者に対し厳格な地域制限を行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合(注7)には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))(注8)。
- (注6)「市場における有力なメーカー」と認められるかどうかについては、当該市場におけるシェアが10%以上、又はその順位が上位3位以内であることが一応の目安となる。
ただし、この目安を超えたのみで、その事業者の行為が違法とされるものではなく、当該行為によって「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に違法となる。
市場におけるシェアが10%未満であり、かつ、その順位が上位4位以下である下位事業者や新規参入者が厳格な地域制限を行う場合には、通常、当該商品の価格が維持されるおそれはなく、違法とはならない。
- (注7)「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たるかどうかは、以下の事項を総合的に考慮して判断することになる。
- @ 対象商品をめぐるブランド間競争の状況(市場集中度、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)
- A 対象商品のブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況、当該商品を取り扱っている流通業者の業態等)
- B 制限の対象となる流通業者の数及び市場における地位
- C 当該制限が流通業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
例えば、市場が寡占的であったり、ブランドごとの製品差別化が進んでいて、ブランド間競争が十分に機能しにくい状況の下で、市場における有力なメーカーによって厳格な地域制限が行われると、当該ブランドの商品をめぐる価格競争が阻害され、当該商品の価格が維持されるおそれが生じることとなる。
なお、「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たるかどうかについては、以下第2部において同様である。
- (注8)新商品のテスト販売や地域土産品の販売に当たり販売地域を限定する場合は、通常、これによって当該商品の価格が維持されるおそれはなく、違法とはならない。
(4) 地域外顧客への販売制限
メーカーが流通業者に対し地域外顧客への販売制限を行い、これによって等が商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項)。
(5) 上記(2)、(3)及び(4)の考え方は、メーカーが卸売業者をして小売業者の販売地域を制限させる場合にも当てはまる(一般指定13項)。
◇ 4 流通業者の取引先に関する制限
(1) 流通業者の取引先に関する制限としては、例えば
@ メーカーが卸売業者に対して、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること(以下「帳合取引の義務付け」という。)
A メーカーが流通業者に対して、商品の横流しをしないように指示すること(以下「仲間取引の禁止」という。)
B メーカーが卸売業者に対して、安売りを行う小売業者への販売を禁止すること等が挙げられる。
(2) 帳合取引の義務付け
メーカーが流通業者に対し帳合取引の義務づけを行い、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))。
(3) 仲間取引の禁止
仲間取引の禁止が、安売りを行っている流通業者に対して自己の商品が販売されないようにするために行われる場合など、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項)。
(4) 安売り業者への販売禁止
メーカーが卸売業者に対して、安売りを行うことを理由(注9)に小売業者へ販売しないようにさせることは、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定2項(その他の取引拒絶)又は13項)。
なお、メーカーが従来から直接取引している流通業者に歌いして、安売りを行うことを理由(注9)に出荷停止を行うことも、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定2項)。
- (注9)「安売りを行うことを理由」にしているかどうかは、他の流通業者に対する対応、関連する事情等の取引の実態から客観的に判断される。
◇ 5 小売業者の販売方法に関する制限
(1) 小売業者の販売方法に関する制限として、具体的には、メーカーが小売業者に対して、
@ 商品の説明販売を指示すること
A 商品の宅配を指示すること
B 商品の品質管理の条件を指示すること
C 自社商品占用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること
等が挙げられる。
(2) メーカーが小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く。)を制限することは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
しかし、メーカーが小売業者の販売方法に関する制限を手段として、小売業者の販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合(注10)には、前記第1及び第2の2から4において述べた考え方に従って違法性の有無が判断される(一般指定11項(排他条件付取引)、12項(再販売価格の拘束)又は13項(拘束条件付取引))。
- (注10)例えば、当該制限事項を遵守しない小売業者のうち、安売りを行う小売業者に対してのみ、当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には、通常、販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される。
(3) また、販売方法の一つである広告・表示の方法について、次のような制限を行うことは、これによって価格が維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項)。
@ メーカーが小売業者に対して、店頭、チラシ等で表示する価格について制限し、又は価格を明示した広告を行うことを禁止すること
A メーカーが自己の取引先である雑誌、新聞等広告媒体に対して、安売り広告や価格を明示した広告の掲載を拒否させること
(4) 上記(2)及び(3)の考え方は、メーカーが卸売業者をして小売業者の販売方法を制限させる場合にも当てはまる(一般指定13項)
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
経済法関連法令・ガイドライン
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