第7 取引先事業者の株式の取得・所有と競争阻害
◇ 1 考え方
  • (1)
     会社が他の会社の株式を取得し、又は所有することは、競争秩序に影響を及ぼす場合もあることから、独占禁止法上、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には株式の取得又は所有を禁止する規定のほか、事業支配力の過度の集中を防止する観点から、持株会社を設立すること等を禁止する規定並びに大規模会社及び金融会社の株式の取得又は所有を制限する規定が設けられている(注14)。しかし、これらの規定に抵触しない限り、会社は原則として自由に他の会社の株式を取得し、又は所有することができる。
  • (2)
     会社の株式の取得又は所有自体が規制の対象とならない場合であっても、事業者が取引先事業者の株式を所有していることを手段として、取引先事業者が自己の競争者と取引することを制限する行為や、自己が株式を所有していない事業者との取引を不当に拒絶する行為は、新規参入者等の株式所有関係のない事業者の取引の機会を減少させるおそれがあるものであり、独占禁止法上問題となる。
     また、事業者は、取引の円滑化等のために取引先事業者と株式所有関係を形成する場合があるが、その際に、取引上優越した地位を利用して取引先事業者の株式を取得する等の行為を行うことは独占禁止法上問題となる。
  • (3)
     不公正な取引方法に該当する行為が行われる場合には、公正取引委員会は、違反行為の差止めのほか、当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる(独占禁止法第20条)。したがって、取引先事業者との株式所有関係を手段又は理由として不公正な取引方法に該当する行為が行われる場合に、違反行為を差し止めることとなるが、違反行為の差止めを命じても株式所有関係があれば、違反行為が反復され、又は反復されるおそれが強い等、違反行為を排除するために株式を処分させることが必要であると認められる場合には、株式の処分を命じることがある。
     また、不公正な取引方法により取引先事業者の株式を取得し、又は所有する行為が行われた場合には、公正取引委員会は、株式の処分等違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができる(独占禁止法第17条の2)。

    ◇ 2 不公正な取引方法による株式所有関係の形成
     事業者は、取引の円滑化等を目的として、取引先事業者の株式を取得し、若しくは所有し、又は取引先事業者に自己の株式を取得させ、若しくは所有させる場合があるが、その際に、その手段として次のような行為が行われれば、当該行為は違法となる。
  • (1)不公正な取引方法により取引先事業者の株式を取得すること
     会社は、不公正な取引方法によって国内の会社の株式を取得し、又は所有することを禁止されている(独占禁止法第10条)。不公正な取引方法によって取引先事業者の株式を取得する場合としては、株式の取得の方法それ自体が不公正な取引方法に該当する場合のほか、不公正な取引方法によって取引先事業者の通常の事業活動を困難にさせて株式を取得する場合がある。
     事業者が、例えば次のような手段を用いて取引先事業者の株式を取得することは、不公正な取引方法による株式取得に該当し、独占禁止法第10条の規定に違反する。
     @ 取引上優越した地位にある完成品製造業者が、取引先部品製造業者に対し、自己に株式を取得させることを要求し、要求に従わない場合には取引を拒絶し、又は不当に不利益な条件を押しつけることを示唆する等によって、当該部品製造業者に第三者割当増資等を行うことを余儀なくさせて株式を取得すること(一般指定14項(優越的地位の濫用))
     A 市場における有力な完成品製造業者が、株式所有関係のない部品製造業者の取引先原材料製造業者をして、当該部品製造業者に対し原材料を供給することを拒絶させることによって、当該部品製造業者の通常の事業活動を困難にさせて、その株主から株式を取得すること(一般指定2項(その他の取引拒絶))
  • (2)取引上優越した地位を利用して取引先事業者に自己の株式を所有させること
     取引上優越した地位にある事業者が、その取引上の地位を利用して、例えば次のような行為を行い、これによって取引先事業者に対し正常な商慣習に照らして不当に経済上の利益を提供させ、又は取引の条件について取引先事業者に不利益を与えることとなる場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項)。
     @ 取引上優越した地位にある完成品製造業者が、取引先部品製造業者に対し、自己の発行する株式の募集に応じない場合には取引を停止する旨示唆する等、その取引上の地位を利用して、自己の発行する株式の募集に応じさせること
     A 取引上優越した地位にある製造業者が、その取引上の地位を利用して、自己の株式を所有する取引先販売業者に対し、自己の株式を処分しないことを条件として商品を供給すること

    ◇ 3 取引先事業者の株式所有を手段又は理由とする排他的行為
     事業者が取引先事業者の株式を所有し、又は取引先事業者と株式を相互に持ちあっている場合には、株式所有比率がそれほど高くなくても、株主であるという立場を利用して当該取引先事業者の意思決定に影響力を及ぼし、取引先の選択等について当該取引先事業者の自主的な判断を阻害する行為を行うことがあり得る。また、取引先事業者との間に株式の所有や相互持合いといった関係がある場合には、自己と株式所有関係のない事業者を市場から排除するために取引を拒絶する行為が行われることもあり得る。このような行為は、価格、品質、サービス等の取引条件の優劣に基づいた自主的な判断による取引先の選択を妨げるとともに、株式所有関係のない新規参入者等の取引の機会を減少させるおそれがあるものであり、独占禁止法上問題となる(行為者と取引先事業者が親子関係にある場合については、(付1)「親子会社間の取引」を参照。)。
  • (1)株式所有を手段とする取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限
     取引先事業者の株式を所有している市場における有力な事業者が、例えば次のような行為を行い、これによって競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる。
     @ 市場における有力な完成品製造業者が、自己が株式を所有している取引先部品製造業者に対し、新規参入しようとする自己の競争者に対し部品を販売した場合には株式を処分し取引を停止する旨通知し、又は示唆して、当該競争者と取引しないようにさせること(一般指定2項(その他の取引拒絶))
     A 市場における有力な製造業者が、自己が株式を所有している取引先販売業者に対し、株主としての地位を利用して、自己の商品のみを取り扱う旨の同意を取り付けること(一般指定11項(排他条件付取引))
  • (2)株式所有関係の有無を理由とする取引拒絶
     業者がどの事業者と取引するかは、基本的には事業者の取引先選択の自由の問題である。
     しかし、市場における有力な事業者が、例えば次のように自己と株式所有関係のない事業者を排除するために取引を拒絶し、これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定2項)。
     @ 市場における有力な完成品製造業者が、自己と株式所有関係のある部品製造業者の競争者を市場から排除するために、自己と株式所有関係のない部品製造業者からの部品の購入を打ち切ること
     A 完成品製造業者と株式所有関係がある市場における有力な部品製造業者が、完成品市場に新規参入しようとする事業者からの取引の申入れに対し、自己と株式所有関係がないことを理由に部品の販売を拒絶すること

    流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
    経済法関連法令・ガイドライン
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