第5 不当な相互取引
◇ 1 考え方
(1)
事業者間で継続的な取引が行われている場合には、既存の取引関係を極力継続させ、取引先事業者との信頼関係を維持するため、それぞれ相手方の必要とする商品を販売している取引の両当事者間で相互取引(取引の相手方からの商品の購入と、相手方への自己の商品の販売が関連付けられている取引をいう。)が行われることがある。なお、このような取引は、直接の当事者間だけではなく、一方の当事者と密接な関係にある事業者との間で行われることもある。
(2)
事業者がそれぞれ価格、品質、サービス等が最も優れる商品を供給する取引先を自由に選択した結果、取引が相手方と相互に行われることとなったとしても、独占禁止法上問題とはならない。
しかし、事業者が購買力を利用して取引先事業者に相互取引を条件付け、又は強制することは、当該取引先事業者の取引先選択の自由を侵害したり、当該事業者の競争者や相互取引に応じられない事業者の取引の機会を減少させるおそれがあるものであり、不当な相互取引として独占禁止法上、問題となる。
(3)
なお、事業者が、社内に購入・販売を統括する部門や担当者等を起き、購入・販売データの比較・突き合わせ、特定の取引先の購入・販売数量を記載したリストの体系的保持等を行うことや、購入部門・販売部門間で取引先リストの交換等を行うことは、債権保全等のためではなく、自己の特定の事業者からの購入実績を当該特定事業者への自己の商品等の販売に反映させるために行う場合には、不当な相互取引を誘発しやすい。
◇ 2 購買力を利用した相互取引
(1)
購買市場における有力な事業者が、例えば次のように自己の商品を購入する旨の条件を付けて自己に商品を販売する継続的な取引の相手方と取引し、これによって当該有力な事業者から商品を購入せず、 若しくは購入できない事業者又は当該有力な事業者の競争者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))(注11)。
@ 購入しなければ、相手方からの購入を打ち切り、又は購入数量を削減する旨申し出て、相手方に購入を要請すること
A 調達担当者等が自己の購入取引に影響を及ぼす旨示唆して相手方に購入を要請すること
B 各取引先事業者からの購入額を基礎として取引先事業者ごとに自己の商品の販売目標を定め、これに達しない場合には相手方からの購入数量を削減する旨申し出て、各取引先事業者に当該目標額を満たす購入を要請すること
C 各取引先事業者における自己からの購入実績と自己に対する販売実績の比較表を公表し、自己からの購入実績の低い者からは、それに応じた数量しか購入しない旨示唆して、追加的購入を要請すること
D 相手方の自己に対する販売の申込みに対し、自己又は自己の指定する事業者から役務の提供を受ければ相手方の商品を購入する旨申し出て、自己の商品の購入を要請すること
- (注11)取引の一方の当事者が、取引先事業者から供給を受ける商品の品質の確保をはかる等のためには、当該取引先事業者に対して当該商品の原材料を供給することが必要と認められるなど独占禁止法上正当と認められる理由がある場合には、違法とはならない(下記3の場合も同様である。)。
(2)
さらに、事業者がその購買力を利用して(注12)取引の相手方に対し、上記(1)@〜Dのような行為又は次のような行為を行い、その行われた状況(行為者の市場における地位、行為者と相手方との関係、市場構造、要請又は申し入れの程度・態様等)から、相手方が当該事業者からの商品の購入を余儀なくされることとなる場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定10項(抱き合わせ販売等))。
@ 購入の意思のない旨を明らかにした者に対して、自己が相手方から役務の提供を受けていることを告げて自己の商品の購入を要請し、これを購入させること
A 相手方から購入する旨の申出がないにもかかわらず、一方的に商品を送付し、その販売代金を買掛金と相殺すること
- (注12)行為者が自らの購買力のみならず、自己と密接な関係にある事業者の購買力を利用する場合には、これらが併せ考慮されることとなる(次の(3)においても同じ。)。
(3)
また、継続的な取引関係にある事業者間で、取引上の地位が相手方より相対的に優越している(注13)一方の当事者が、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に、自己が商品を購入する相手方に対して自己又は自己の指定する事業者の販売する事業者の販売する商品を購入させることは、事業者の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するものである。したがって、取引上優越した地位にある事業者が、例えば上記(1)@〜D又は(2)@〜Aのような行為を行って自己が商品を購入する取引先事業者に自己又は自己の指定する事業者の販売する商品を購入させる場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定14項(優越的地位の濫用))。
- (注13)取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し取引上優越した地位にある場合とは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、甲に対する取引依存度、甲の市場における地位、取引先変更の可能性、取引対象商品の需給関係等を総合的に考慮する。
◇ 3 事業者間の任意の取り決めに基づいて行う相互取引
継続的な取引関係にある事業者間で、それぞれ自己の商品を相手方が購入する旨の条件を付けて相手方から商品を購入することを相手方と任意に取り決めて相互取引が行われる場合には、上記2の場合とは異なり、事業者が一方的に自己の商品を取引先事業者に購入させるものではないので、市場を閉鎖する程度が大きい場合にのみ問題となる。このような相互取引が行われると、取引の当事者は、自己の商品を購入している相手方との取引を優先し、相手方の競争者から取引の申込みがあっても消極的な対応しかせず、その結果、当該競争者は、当該取引の当事者との取引の機会を失うこととなろう。したがって、任意の取り決めに基づいて行われる相互取引であっても、次のような場合には違法となる。
@ 市場における有力な事業者が、継続的な取引の相手方と、それぞれ自己の商品を相手方が購入する旨の条件を付けて相手方から商品を購入することを任意に取り決めて相互取引を行い、これによって等が移送後取引の対象となる商品を販売する他の事業者の取引の機会が減少し、他に代わり得る取引先を容易に見いだすことができなくなるおそれがある場合には、当該行為は不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定13項(拘束条件付取引))。
A 事業者が、任意に取り決めて、相手方が自己と密接な関係にある事業者の商品を購入することを条件として、相手方から商品を購入する場合等には上記(1)の考え方に従って判断されることとなる。同一のいわゆる企業集団に属する事業者間で任意に取り決めて相互取引が行われる場合も同様である。
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
経済法関連法令・ガイドライン
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