第2 共同ボイコット
◇ 1 考え方
市場における公正かつ自由な競争の結果、ある事業者が市場から退出することを余儀なくされたり、市場に参入することができなかったとしても独占禁止法上問題となることはない。
しかし、事業者が競争者や取引先事業者等と共同して又は事業者団体が、新規参入者の市場への参入を妨げたり、既存の事業者を市場から排除しようとする行為は、競争が競争が有効に行われるための前提条件となる事業者の市場への参入の自由を侵害するものであり、原則として違法となる。
共同ボイコットには、様々な態様のものがあり、それが事業者の市場への参入を阻止し、又は事業者を市場から排除することとなる蓋然性の程度、市場構造等により、競争に対する影響の程度は異なる。共同ボイコットが行われ、行為者の数、市場における地位、商品又は役務の特性等からみて、事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合には不当な取引制限として違法となる。市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、共同ボイコットは一般に公正な競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法として違法となる。また、事業者団体が共同ボイコットを行う場合にも、事業者団体による競争の実質的制限行為又は競争阻害行為(一定の事業分野における事業者の数を制限する行為、構成事業者の機能活動を不当に制限する行為又は事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにする行為)として原則として違法となる。
◇ 2 競争者との共同ボイコット
(1)
競争関係にある事業者が共同して、例えば次のような行為を行い、これによって取引を拒絶される事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合(注2)は、当該行為は不当な取引制限に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反する。
@ 製造業者が共同して、安売りをする販売業者を排除するために、安売り業者に対する商品の供給を拒絶し、又は制限すること
A 販売業者が共同して、競争者の新規新規参入を妨げるために、取引先製造業者をして新規新規参入者に対する商品の供給を拒絶させ、販売業者は新規参入者に対する商品の供給を拒絶すること
B 製造業者が共同して、輸入品を排除するために、取引先販売業者が輸入品を取り扱う場合には商品の供給を拒絶する旨通知して、当該販売業者をして輸入品を取り扱わないようにさせること
C 完成品製造業者が共同して、競争者の新規参入を妨げるために、取引先原材料製造業者が新規参入者に対し原材料を供給する場合には取引を拒絶する旨通知して、当該原材料製造業者をして新規参入者に対する原材料の供給を拒絶させること
- (注2)共同ボイコットによって、例えば、次のような状況となる場合には、市場における競争が実質的に制限されると認められる。
- @ 価格・品質面で優れた商品を製造し、又は販売する事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合
- A 革新的な販売方法を採る事業者などが市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合
- B 総合的事業能力が大きい事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合又は市場から排除されることとなる場合
- C 事業者が競争の活発に行われていない市場に参入することが著しく困難となる場合
- D 新規参入しようとするどの事業者に対しても行われる共同ボイコットであって、新規参入しようとする事業者が市場に参入することが著しく困難となる場合
(2)
競争関係にある事業者が共同して、上記(1)@〜Cのような行為を行うことは、これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(独占禁止法第19条違反)(一般指定1項(共同の取引拒絶))。
◇ 3 取引先事業者等との共同ボイコット
(1)
事業者が取引先事業者等と共同して、例えば次のような行為を行い、これによって取引を拒絶される事業者が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合には、当該行為は不当な取引制限に該当し(注3)、独占禁止法第3条の規定に違反する。
@ 複数の販売事業者と複数の製造業者とが共同して、安売りをする販売業者を排除するために、製造業者は安売り業者に対する商品の供給を拒絶し、又は制限し、販売業者は安売り業者に対し商品を供給する製造業者の商品の取扱を拒絶すること
A 製造業者と複数の販売業者とが共同して、輸入品を排除するために、販売業者は輸入品を取り扱わず、製造業者は輸入品を取り扱う販売業者に対する商品の供給を拒絶すること
B 複数の販売業者と製造業者とが共同して、販売業者の新規参入を妨げるために、製造業者は新規参入者に対する商品の供給を拒絶し、販売業者は新規参入者に対し商品を供給する製造業者の商品の取扱を拒絶すること
C 複数の原材料製造業者と完成品製造業者とが共同して、輸入原材料を排除するために、完成品製造業者は輸入原材料を購入せず、原材料製造業者は輸入原材料を購入する完成品製造業者に対する原材料の供給を拒絶すること
- (注3)不当な取引制限は、事業者が他の事業者と共同して「相互にその事業活動を拘束」することを要件としている(独占禁止法第2条第6項)。ここでいう事業活動の拘束は、その内容が行為者(例えば、製造業者と販売業者)すべてに同一である必要はなく、行為者のそれぞれの事業活動を制約するものであって、特定の事業者を排除する等共通の目的の達成に向けられたものであれば足りる。
なお、取引先事業者等との共同ボイコットにより、市場における競争が実質的に制限されると認められる場合の例については、上記(注2)を参照されたい。
(2)
事業者が取引先事業者等と共同して、上記(1)@〜Cのような行為を行うことは、これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定1項(共同の取引拒絶)又は2項(その他の取引拒絶))。
◇ 4 事業者団体による共同ボイコット
事業者団体が、例えば次のような行為を行い、これによって取引を拒絶される事業者等が市場に参入することが著しく困難となり、又は市場から排除されることとなることによって、市場における競争が実質的に制限される場合(注4)には、当該行為は独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反する。また、事業者団体が次のような行為を行うことは、これによって市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、原則として独占禁止法第8条第1項第3号、第4号又は第5号(一般指定1項(共同の取引拒絶)または2項(その他の取引拒絶))の規定に違反する。
@ 販売業者を構成事業者とする事業者団体が、輸入品を排除するために、構成事業者が輸入品を取り扱うことを禁止すること(独占禁止法第8条第1項第1号又は第4号)
A 販売業者及び製造業者を構成事業者とする事業者団体が、構成事業者である製造業者をして構成事業者である販売業者にのみ商品を供給し、アウトサイダーには商品を供給しないようにさせること(独占禁止法第8条第1項第1号又は第4号)
B 販売業者を構成事業者とする事業者団体が、アウトサイダーを排除するために、構成事業者の取引先である製造業者に対し、アウトサイダーに対し商品を供給しないよう要請する等によって圧力を加えること(独占禁止法第8条第1項第1号又は第5号)
C 販売業者を構成事業者とする事業者団体が、構成事業者の競争者の新規参入を妨げるために、構成事業者の取引先である製造業者に対し、新規参入者に対し商品を供給しないよう要請する等によって圧力を加えること(独占禁止法第8条第1項第1号又は第5号)
D 販売業者を構成事業者とする事業者団体が、事業者団体への新規加入を制限するとともに、構成事業者の取引先である製造業者をして、アウトサイダーに対する商品の供給を拒絶させること(独占禁止法第8条第1項第1号、第3号又は第5号)
E 役務を供給する事業者を構成事業者とする事業者団体が、当該事業者団体に加入しなければ事業を行うことが困難な状況において、事業者の新規加入を制限すること(独占禁止法第8条第1項第1号又は第3号)
- (注4)事業者団体による共同ボイコットにより、市場における競争が実質的に制限されると認められる場合の例については、上記(注2)を参照。
流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針
経済法関連法令・ガイドライン
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