第3 競争を実質的に制限することとなる場合(2 具体的判断要素)
- (1)当事会社の地位
- ア 市場のシェア
- (ア) 市場シェアは、当該会社の市場における地位を示す基本的な指標である。企業結合後の当事会社の市場シェアが大きい場合、企業結合による市場シェアの増加分が大きい場合又は競争者の市場シェアとの格差が大きい場合には、それだけ当該企業結合の競争に及ぼす影響が大きい。
なお、この市場シェアは、当事会社グループの各社の市場シェアを合計したものにより判断する。
- (イ) 当事会社グループが商品の製造販売業である場合は、市場シェアは、一定の取引分野における販売数量(当該商品につき、かなりの価格差がみられ、かつ、価額で供給実績等を算定するという慣行が定着していると認められる場合など、数量によることが適当でない場合には、販売金額による。)のシェアによる。
- (ウ) 当事会社グループの生産能力シェア、輸出比率又は自己消費のウェイトについても、需要に対応して当事会社が余剰生産能力、輸出分又は自己消費分を直ちに国内市場における販売に回し、その市場シェアを拡大することができると認められる場合があるので、必要に応じてこれらの点も考慮に入れる。
- (エ) 企業結合による市場シェアの変化の算定に当たっては、基本的に当事会社グループ各社の直近の市場シェアを合計する。その際、最近の販売数量、売上高の動向、ユーザーの選好の変化などにより当該企業結合後にシェアの大きな変動が見込まれる場合には、その点も加味して競争に与える影響を判断する。
- イ 順位
当事会社グループの市場シェアの順位が高い場合及び企業結合により大きく順位が上昇する場合には、それだけ当該企業結合の競争に及ぼす影響が大きい。
- ウ 当事会社間の従来の競争の状況等
従来、当事会社間で競争が活発に行われてきたことや当事会社の行動が市場における競争を活発にしてきたことが、市場全体の価格引下げや品質・品揃えの向上などにつながってきたと認められる場合には、当事会社グループの市場シェアやその順位が高くなかったとしても、当該企業結合によりこうした状況が期待できなくなるときには競争に及ぼす影響が大きい。
(参考1)競争を実質的に制限することとならない場合
企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについては、個々の事案ごとに具体的判断要素を総合的に勘案して判断するが、以下のような場合は、競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない。
<1>
当事会社グループの市場シェアが10%以下である場合
<2>
輸入を含め参入は容易であると判断される場合であって、寡占的でない一定の取引分野において、当事会社グループの市場シェアが25%以下であり、かつ、順位が第2位以下である場合(上記ウの状況に該当する場合を除く。)
<3>
当該企業結合によって、当事会社グループの地位や競争者の数に変動がない、いわゆる垂直的結合・混合型結合の場合であって、後述の市場の閉鎖性・排他性、総合的事業能力等の問題を生じない場合
(参考2)競争を実質的に制限することとなるおそれがあるとされた例
<例1>
企業結合の一方の当事会社のシェアが47.6%と圧倒的に高い上に合併によるシェアの増加分も大きく(13.2%)、第2位のメーカーのシェアは、合併新会社の3分の1程度にすぎず、その格差が大きい場合(平成5年度)
<例2>
企業結合後の生産シェアが33.4%・第1位となるとともに合併によるシェアの増加分も大きく(10.2%)、上位3社の集中度が66.3%となる場合(平成8年度)
<例3>
企業結合後の新会社の販売数量シェアが大幅に上昇して50%弱となり、さらに、生産能力シェアでみると、50%を大幅に上回り、競争会社が他に1社となる場合(平成8年度)
- (2)市場の状況
- ア 競争者の数及び集中度
一定の取引分野における競争者の数が少ない場合には、当該企業結合の競争に及ぼす影響が大きい。
特に、競争者の数が減少して、いわゆる寡占的な市場に変化する場合、例えば上位3社累積シェアが70%を超えることとなる場合には、競争者間において協調的行為が行われやすくなることも考慮する。
他方、企業結合後の当事会社グループと同等以上の市場シェアを有する競争者がある場合には、当事会社の市場支配力を形成・強化を妨げる要因となることも考えられる。
有力な競争者の存在が市場支配力の形成・強化を妨げる要因となるか協調要因となるかについては、当該一定の取引分野における過去の競争の状況、特に市場シェアや価格の変動状況を参照して検討を行う。
- イ 参入
一定の取引分野における法制度上での参入規制の有無、参入に必要な最小資金の規模、立地条件、技術条件、原材料調達の条件、販売面の条件、製品差別化の状況等実態面での参入障壁の有無をみるほか、生産設備に重要な変更を加えることなく当該商品を供給し得る事業者の有無、外国事業者の国内市場への参入の蓋然性についても考慮する。
参入障壁の程度については、例えば、競争者の交替や数の増減などの変動の状況、上位3社の累積シェアの変動傾向等の点も考慮して判断する。
当該企業結合の当事会社の一方が他方の当事会社の属する市場における潜在的な競争者である場合には、当該企業結合によって一方の当事会社の新規参入の可能性を消滅させることになることも考慮する。
<例>
機械構造用炭素鋼と構造用合金鋼は、鋼種は異なるが主たる用途が類似していること等から部分的には代替関係にあり、また、生産面からみれば同一の設備で生産することが可能であることから、それぞれの取引分野間の参入障壁は高くないとみることができる(平成5年度)。
- ウ 輸入
国内ユーザー向けの輸入があれば、国内への供給として市場シェアに算定するほか、輸入量の推移、価格・品質等の面における輸入品の競争力の程度、海外における有力な事業者の存在等による輸入の蓋然性、輸出国の需給バランス等輸入に係る状況を総合的にみるものである。輸入圧力が十分働いていれば、当該企業結合が市場シェアの上昇等がもたらすものであっても、競争制限のおそれは小さいものとなる。
<例 石油化学製品>
フェノールについては、メーカーによる品質の差がなく、ユーザーの使い慣れ等の問題もないこと、ロット・荷姿・運搬・保管の面で問題が少なく、主なユーザーに輸入の経験があることから、ユーザーは容易に輸入を増やすことができると考えられ、また、輸入価格、輸出価格及び国内価格がほぼ同水準で推移しており、国内市場及び海外市場共通の価格形成が行われているとみられることからも、合併後の当事会社の販売シェアが高くても(57.3%・第1位)、国内市場における価格や数量をコントロールする力はないとみられる。
フェノールの輸入比率は平成7年で1.7%にすぎないが、国内生産能力が低かった時期には輸入比率は現在よりも高かったことを考慮すると、輸入比率の低さは、国内価格が海外価格とほぼ同水準であり、かつ、現在は国内メーカーの供給余力があるため、あえて輸入するまでもないことによるものとみられる。また、大手ユーザーの中には、国内メーカーとの価格交渉を有利に行うこと等の目的から、輸入価格の方がある程度高くても輸入を継続する方針を採っているものもみられた(平成9年度)。
- エ 取引関係に基づく閉鎖性・排他性
取引関係にある会社間の企業結合が行われた結果、当事会社の競争者が有力な販売先若しくは購入先を奪われ、又はそれらとの取引の機会を奪われることとなる場合には、当該企業結合が当事会社が属するそれぞれの一定の取引分野における競争に影響を及ぼす。
例えば、設備機器製造業者とそのユーザー会社間の企業結合にあっては、当該ユーザー会社に設備機器を販売していた他の設備機器製造業者が販売先との取引の機会、当該設備機器製造業者から購入していた他のユーザー会社が購入先との取引の機会、又は今まで取引のなかった設備機器製造業者やユーザー会社がそれらとの取引の機会を奪われることとなる。すなわち、当該企業結合を契機として、当該企業結合の当事会社間の取引部分について当該市場は事実上閉鎖されることとなるので、当事会社の競争者は販売先や購入先をみつけることが困難になり、その時点において取引関係にない競争者は取引の機会を奪われることにもなりかねない。この場合、当事会社の市場シェアおよび総合的事業能力(2(3)ア参照)が大きいほど当該企業結合の競争に及ぼす影響が大きい。
また、有力なメーカーと有力な流通業者との垂直的な企業結合が行われる場合において、他のメーカーが新規参入するに当たって、自ら流通網を整備しない限り参入が困難となるときには、競争に及ぼす影響が大きい。
なお、当該企業結合後も競争者と取引を継続する場合において、結合前と比較して競争者が取引上不利に取り扱われることにより、実効性のある競争が期待できなくなるとき、競争に及ぼす影響が大きい。
- (3)その他
- ア 総合的事業能力等
当該企業結合後の当事会社グループの市場シェアのほか、原材料調達力、技術力、販売力、信用力、ブランド力、広告宣伝力等の当事会社のグループの総合的な事業能力の変化をみるものである。例えば、当該企業結合後の当事会社のグループの原材料調達力、技術力、販売力、信用力、ブランド力、広告宣伝力等の事業能力が増大し、企業結合後の会社の競争力が著しく高まるような場合には、それによって競争者が競争的な行動をとることが困難になるおそれがある。
<例>
石油化学品メーカーと総合化学品メーカーの合併において、当事会社の相互に関連性にある品目が集積することによって石油化学工業における当事会社の総合的事業能力が拡大し、石油化学製品それぞれにおける競争に影響を及ぼすことが懸念された(平成9年度)。
- イ 隣接市場からの競争圧力
当該一定の取引分野に関連する市場、例えば、地理的に隣接する市場、当該商品を加工したものや次の取引段階の市場及び当該商品と類似の機能を有する代替品の市場における競争の状況についても考慮の対象となる。例えば、隣接市場において十分に活発な競争が行われている場合には、当該一定の取引分野における競争を促す要素として評価し得る。
- (ア)当該市場に地理的に隣接する市場の状況
地理的に限られた市場の場合であって、それに隣接して同一の商品が供給されている別の地理的市場が存在するときには、その近接度、物流手段、交通手段、当該市場の事業者の規模等により、当該隣接市場における競争が当該市場の競争を促す要素として評価される場合があり得る。
- (イ)次の取引段階
一定の取引分野の次の取引段階の市場において行われている競争の状況により、当該市場が取引関係を通じて当該一定の取引分野における競争を促進するものとして評価される場合があり得る。
<例>
セメントの需要の約7割を占める生コンクリートの製造販売業においては、生コンクリートメーカーは全国各地区において協同組合を組織しており、その多くにおいて共同販売事業が行われているので、生コンクリート市場における競争がセメント市場における競争を促すという関係にあるとは言えないと判断された(平成10年度)。
- (ウ)代替品
当該商品と機能・効用は類似しているが、別の市場を構成している代替品の市場が存在する場合には、販売網、需要者、価格等の面からみた代替性の程度により、当該一定の取引分野における競争に影響を及ぼすことがあり得る。
<例>
反応染料は、主にセルロース繊維用染料として用いられているところ、直接染料を始める他のセルロース繊維用染料の品質の向上及び価格、作業の簡便性、堅牢度等の点からみて、反応染料と他のセルロース繊維用染料との間に代替関係がみられるようになっており、両者を合わせてみると、当事会社の販売シェアは低下することを考慮事項とした(平成7年度)。
- ウ 効率性
当該企業結合による規模の経済性、生産設備の統合、工場の専門化、輸送費用の軽減及び研究開発の効率化等の効率性の改善が競争に及ぼす影響の程度をみるものである。効率性の改善が競争を促進する方向に作用すると認められる場合(例えば、下位企業が合併によりコスト競争力、資金調達力、原材料調達力などを高め、それが製品価格の引下げや品質の向上などにつながり、上位企業との競争が促進されるとみられる場合)に、これを考慮する。
株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方
経済法関連法令・ガイドライン
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