第2 一定の取引分野(2 商品又は役務)
商品又は役務に係る一定の取引分野は、取引対象商品又は役務と機能及び効用が同種である商品又は役務ごとに画定される。
当事会社グループが商品の供給側である場合は、当該商品を購入するユーザーにとって、機能・効用が同種であるか否か、同じ用途に用いる商品にはどのようなものがあるかにより判断する。その際ユーザーとは、当事会社グループの事業活動の対象となる取引先であって、生産財のメーカーであれば当該商品を加工して次の商品の製造等を行う者、消費財のメーカーであれば一般消費者、流通業者であれば次の流通段階にある者がこれに当たる。
また、供給に要する設備等に相違があるか否かを勘案して判断する場合もある。
一定の取引分野が成立する商品又は役務について過去の主要な企業結合事案から例を挙げると、次のとおりである。
- <例1 特殊鋼鋼材>
特殊鋼鋼材は、各鋼種ごとに、強度、弾性、耐腐食性、耐熱性、被削性等の特徴を有し、主たる用途に差異がみられ、ユーザーも異なること、また、各形状によって用途・ユーザーが異なり各形状間の互換性がないこと、形状に即した圧延設備が必要であることから、特殊鋼鋼材の鋼種及び形状によって個別に「一定の取引分野」が成立すると判断した(平成5年度)。
- <例2 直鎖状低密度ポリエチレン>
低密度ポリエチレン(以下「LDPE」という。)は、石油から精製されるナフサを分解して生産されるエチレンを重合して製造される。直鎖状低密度ポリエチレン(以下「L-LDPE」という。)は、従来のLDPEの基本的な特性である高周波絶縁性、成形加工性、耐薬品性、弾性等の特性に衝撃強度性、耐ストレスクラッキング性(長期間外部環境にさらしても劣化が起こりにくい性質)、耐熱性等の特性を付加・強化したものである。両者は、基本的な特性が共通していること、また、食品包装材、ごみ袋等のフィルムとして使用されるなど用途が共通していることから、L-LDPEを含めたLDPEの製造・販売分野に「一定の取引分野」が成立すると判断した。ただし、L-LDPEはLDPEにはない特性、用途もあることから、L-LDPEのみの製造・販売分野にも「一定の取引分野」が成立すると判断した(平成8年度)。
- <例3 総合小売量販店>
総合小売量販店同士の合併において、一次的には量販店市場を一定の取引分野とみるが、地域によっては百貨店と直接競争関係にある場合もあることから、そのような地域においては、量販店に百貨店を含めた市場に「一定の取引分野」が成立すると判断した(平成5年度)。
- <例4 紙>
製紙業全体で「一定の取引分野」をみるとともに、個別品種についても、例えば、キャストコート紙については、それ以外の品種と製造設備が異なり、価格差が大きいこと、アート紙及びコート紙については、品質面において差異があり、用途が異なる等ユーザー側において機能及び効用をそれぞれ区分して認識している実態にあること、少なからず価格差があること、供給面での品種間の流動性が乏しいとみられることから、キャストコート紙、アート紙及びコート紙のそれぞれに「一定の取引分野」が成立すると判断した(平成5年度)。
- <例5 PHSと携帯電話>
PHSと携帯電話とは、基本料、通信料及び端末価格に大きな差があるが、高速移動中の使用可能性、利用地域の広狭を除くと基本的に機能は同一である。また、将来的にみると、携帯電話の基本料・通話料については、現在、基地局設置コストが下がる傾向にあり、これにより、PHSの料金水準に近づく可能性があること、携帯電話の端末価格については、価格低下の傾向がみられること、PHSの利用可能地域については、当初は限定されているものの、その後のエリアが拡大し携帯電話のエリアに接近していくと見込まれること等から、携帯電話とPHSとの区別は薄れるとみられている。これらのことから、携帯電話及びPHSのサービス分野に「一定の取引分野」が成立すると判断した(平成6年度)。
株式保有、合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方
経済法関連法令・ガイドライン
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