不当な返品に関する独占禁止法上の考え方
- はじめに
- (1)
我が国の消費財の流通分野においては、商品の種類、流通段階等により相違はあるが、小売業者や卸売業者が自ら販売するために購入した商品を購入先に返品する取引慣行が広く存在している。
このような返品の慣行に関しては、かねてから大規模小売業者に商品を納入している事業者の関係団体から、独占禁止法上不当とみられる返品の防止についての要望が当委員会に寄せられている。
また、貿易摩擦問題に関連して、外国から、我が国における返品の慣行の存在が、外国製品を我が国の市場で販売するに当たって参入抑制的な効果をもたらすおそれがある旨の指摘もなされている。
- (2)
我が国においては、消費財について、新規商品の開発が頻繁に行われているばかりでなく、大部分が見込生産によっており、さらに流通分野においても、活発な販売競争が展開されている。このような状況の下で、我が国における返品の慣行は、長期的継続取引の中で他の取引条件と密接に関連しながら行われてきたものである。
また、経済的に見れば、返品の慣行は、新規商品の参入を促進する効果を有する、あるいは地域的な需給に即応させる等の利点を有している一方、流通コストが割高となる、返品をする事業者の経営姿勢を安易にする、あるいは返品を受ける事業者に不当に不利益を与える等の問題点を有している。
返品の慣行に関する競争政策上の対応を検討するに当たっては、上記のような事情を踏まえ、返品の慣行の利点をいかしつつ、問題点を除くよう配慮する必要がある。
- (3)
この「不当な返品に関する独占禁止法上の考え方」は、独占禁止法上問題となる不当な返品の規制についての考え方を整理したものであり、これによって流通分野における不当な返品を未然に防止し、取引の公正化に役立てようとするものである。
- 1 独占禁止法に基づく不当な返品の規制
一般に、返品の慣行それ自体は、独占禁止法の規制の対象とされるものではないが、取引上の地位に優劣がある事業者間の取引において、取引上の地位が優越している事業者がその地位を利用して購入した商品を不当に返品することにより相手方に不利益を与えることとなる場合には、このような返品は、優越した地位の濫用行為として独占禁止法の規制の対象とされる。
すなわち、不当な返品は、「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)第14項第3号及び第4号の規定に基づいて規制されるが、特に、大規模小売業者と納入業者との間の納入取引における不当な返品については、「百貨店業における特定の不公正な取引方法」(昭和29年公正取引委員会告示第7号。以下「百貨店業の特殊指定」という。)第1項の規定に基づいて規制される。
- 2 一般指定第14項第3号及び第4号に基づく不当な返品の規制の考え方
一般指定第14項第3号及び第4号では、次のとおり規定されている。
(優越的地位の濫用)
14 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。
- 3 相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること。
- 4 前3号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること。
不当な返品に対するこれらの規定の適用についての考え方は、次のとおりである。
- (1)取引上の地位の優越性について
「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」とは、商品を購入した事業者が、その属する市場において独占的又は寡占的な地位にあるか否かにかかわらず、商品を納入する事業者に対して取引上相対的に優越していることにより、不当に相手方に不利益を与え得るような取引上の地位にあることをいう。
取引上の地位の優越性については、商品を購入した事業者と相手方事業者との総合的事業能力の格差(資本金、従業員数、総売上額等の比較)、取引関係(取引依存度、継続的取引の必要性等の実態)、取引対象商品の需給関係等を総合勘案し、個別具体的に判断される。
- (2)不当な返品について
- ア 取引上優越した地位にある事業者が購入した商品を返品することが、「正常な商慣習に照らして不当に、相手方に不利益を与えること」に該当するかについては、次の2つの要件を満たしているかどうかにより判断される。
なお、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習をいう。したがって、事業者の行為が現に存在する商慣習に合致していることをもって、それが直ちに正当化されるものではない。
- @ 商品の購入に当たり、返品が許容される取引であることが取引当事者間で事前に明確になっていること。
- A 当該取引における返品についての危険負担が、当該取引に係る諸条件から見て、相手方に不利益なものとなっていないこと。
なお、個別具体的な判断に当たっては、当該取引に係る返品の必要性、返品の実施状況等を参酌することとする。
- イ
- (ア)
一般に、事業者間の取引にあっては、取引当事者が当該取引に係る諸条件を考慮し、利害得失を計算した上で相互了解に基づいて取引を行うものであり、このことは、取引上の地位に優劣がある事業者間の返品が許容される取引においても基本的には同様である。
したがって、返品が許容される取引であることが、取引当事者間で事前に明確になっていない場合には、一方的に返品を受けることにより、取引上の地位の劣る事業者が、あらかじめ計算されていない不利益を受けることがあるので、このような返品は不当な返品に該当するおそれがある。
- (イ)
また、取引上の地位に優劣がある事業者間の取引において、返品についての危険負担が、マージン率等の取引条件に照らして、取引上の地位の劣る事業者に一方的に不利益になっているとみられる場合の返品は、不当な返品に該当するおそれがある。
- ウ 前記アの2つの要件にかかわらず、次のような場合の返品は、不当な返品に該当しない。
- (ア)
納入業者の責に帰すべき事由に基づいて、納入された商品がかしのある商品であった場合や注文と異なる商品であった場合等の返品
- (イ)
取引当事者の個別の事情により行われる返品であって、返品を受ける事業者に不利益になっていないことが明らかであり、かつ、取引当事者の一方の申出により、取引当事者の他方の了承の下に行われる場合等の返品
- 3 百貨店業の特殊指定第1項に基づく不当な返品の規制の考え方
百貨店業の特殊指定第1項では、次のとおり規定されている。
1 百貨店業者が、左の各号の1に該当する場合を除き、納入業者から購入した商品の全部または一部を当該納入業者に対して返品(購入契約を委託販売契約に切り替え、または商品を取り替える等実質的に返品となる行為を含む。以下同じ。)すること。
- 納入を受けた商品が、納入業者の責に帰すべき事由にもとづき、汚損し、き損し、その他かしのあるものであった場合において、納入を受けた日から相当の期間内に、その商品を当該納入業者に対して返品すること。
- 納入を受けた商品が注文した商品と異なっていた場合において、納入を受けた日から相当の期間内に、その商品を当該納入業者に対して返品すること。
- 納入を受けた商品について、納入を受けた日から一定の期間または納品の総量に対して一定の数量の範囲内においてその商品を返品することが、百貨店業者と納入業者との取引以外の一般の卸売取引においても正常な商慣習となっている場合において、当該商慣習となっている期間または数量の範囲内において、その商品を当該納入業者に対して返品すること。
- 納入を受けた商品の返品によって通常生ずべき損失を百貨店業者が負担し、かつ、当該納入業者の同意をえてその商品を当該納入業者に対して返品すること。
- 納入業者が百貨店業者から自己の納入に係る商品の返品を受けて、その商品を処分することが当該納入業者の直接の利益となる場合において、当該納入業者の申出に応じて、その商品を当該納入業者に対して返品すること。
百貨店業の特殊指定にいう「百貨店業者」の要件を備えた大規模小売業者が、百貨店業の特殊指定にいう取引上の地位が当該大規模小売業者に対して劣っている「納入業者」から購入した商品を、当該納入業者に返品することは、納入業者の責に帰すべき事由に基づくかしのある商品の返品等百貨店業の特殊指定第1項の各号に規定する返品類型に該当する場合を除き禁止されている。
この場合、百貨店業の特殊指定第1項第3号の適用に当たって、「正常な商慣習」に該当するかについては、次の要件を満たしているかどうかにより判断される。
- @ 商品の購入に当たり、返品が許容される取引であることが取引当事者間で事前に明確になっていること。
- A 当該取引における返品についての危険負担が、当該取引に係る諸条件から見て、相手方に不利益なものとなっていないこと。
- B 返品の期間が、原則として、取引当事者間で事前に明らかになっていること。
なお、個別具体的な判断に当たっては、当該取引に係る返品の必要性、返品の実施状況等を参酌することとする。
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