慶應義塾大学産業研究所 3部門合同プロジェクト
3部門合同プロジェクト
T.「労働市場と規制緩和」に関する研究プロジェクト
(平成7年度研究成果)
労働市場の規制緩和の諸問題について研究会議を重ねた結果、つぎのような知見を得た。
1.経済分析の視点から
日本の法律は労働者を解雇しやすいが、解雇権濫用法理という判例も確立している。また、労働市場の柔軟性にかんしては、数量的柔軟性は高いが、金銭的柔軟性はボーナス等で高 く年功賃金性で低くなっている。今後は、退職金制度など、流動化を妨げる制度の見直しが必要となるとともに、労働者の交渉力確保ための枠組みをさらに充実する必要がある。
2. 労働組合の立場から
労働市場の流動化を前提とした場合、労働者をサポートする規制は強化する必要がある。しかし、パートの労働組合化など難問が多い。
3. 経営者の立場から
職業安定法は問題が多い(とくに派遣事業など)。労働基本法の最低賃金、労働時間、女子保護規定も撤廃すべきである。しかし、規制緩和は雇用増につながるとは限らない。むしろ、制度の変更やこれからの働き方の意識づくりも重要である。
4. 民間人材関係企業の立場から
職業安定所はホワイトカラーの細かいニーズを満たしていない。ミスマッチを解消するには、首都圏と地方で実態が異なることや、伝統的価値観が変わり難いことに留意する必要がある。今後は、人材ビジネスのコスト負担のあり方や職務遂行能力の判断が重要課題となる。
5. 労働法学の視点から
「労働契約期間の上限の見直し」、「裁量労働制の対象業務の拡大」、「変形労働時間制」、「民事紛争処理のための新行政期間の設置」が、現在議論されている課題である。- 佐野陽子(1995),「21世紀、クリエイティブでなければ生きていけない」『週刊エコノミスト』、12月12日号.
- 石田英夫(1996), 「日本企業の研究者の人的管理」『慶應経営論集』13巻2号
- 石田英夫(1996), 「研究人材のマネジメントの現状と課題」『組織行動研究』第26号 慶應義塾大学産業研究所.
- 樋口美雄(1996), 『労働経済学』 東洋経済新報社.
- 早見 均(1996), 「市場開放の経済効果─平均費用関数の推定」『日本経済新聞』
- 清家 篤(1996), 「雇用の行方と労働行政の課題」『労働時報』
- 清家 篤(1996), 「貢献・能力要素の比重増大 個別賃金決定のルール他を」『週刊エコノミスト』3211号
(平成8年度研究計画)
<期待される成果>
本研究は、労使関係論、労働経済学、計量経済学、人事管理論、組織行動論、労働法、独占禁止法の各研究者のきわめて学際的な共同研究である。目的は法則などの制度が労働市場の機能におよぼす影響を明らかにすることであり、今後の制度的枠組を確立するための資料を提供するであろう。とくに、社会・経済・産業の変化にマッチしない制度が、労働者の流動化を阻んでいないか、労働のコストを押し上げていないか、労働者の公正感や労働生活の満足感にどれほど影響しているかが明らかになろう。
1996年度
1. 共通の調査票を作成する。
2. 面接調査を行う。
3. 郵送調査を行う。
4. 調査とは別に定量的分析に耐え得る統計資料を収集する。
1997年度
1. 調査結果をデータインプットし、分析を行う。
2. 各部門の分析結果を互いに確認し、最終的な結論に至る。
(内外研究機関との協力研究調査)
労働市場の規制の実態と市場機能への影響─規制緩和は何をもたらすか─
福沢諭吉記念基金、文部省科学研究費 平成7年〜
学事振興基金 平成8年〜
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