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産業研究所は、慶應義塾創立100周年の記念事業の一環として、藤林敬三初代所長をはじめとして、学内関係者および産業界・労働界の多数の方々の協力のもとに、昭和34年9月大学付属研究所として設立されました。

その後、当初、当研究所の活動の一環とされておりましたビジネス・スクールは、設立準備完了に伴い、昭和374月分離独立しました。

さらに、昭和38年には、電子計算機の導入により三田電子計算室が当研究所に併設され、その運営にもあたりましたが、昭和444月情報科学研究所の設立により分離し、現在に至っております。

事業内容

当研究所では、慶應義塾の各学部・各研究所から研究者が集まり、当研究所の専任の研究者とともに、オリジナルな理論の提示、新たな現象・法則の発見、新しい分析技法の開発を目標として、各種の共同研究を推進しています。それらの成果は学内外に発表され、研究・教育活動の国際交流にも役立っています。

研究分野は大きく経済・法律・行動科学の三部門に分けられます。

経済部門では、さまざまな経済現象とそれらの発生メカニズムに関して、経験科学としての実証理論分析を試みるとともに、発生メカニズムの基盤である経済システムの総合的分析のためにKEOKeio Economic Observatory)一般均衡型多部門モデルを構築し、日本経済の構造変化の分析を長期的な研究テーマとして推進しております。また、実証理論分析に不可欠な体系的統計情報を「KEOデータ・ベース」として整備し、生産物・労働・資本に関する各市場の特性と市場間の相互依存関係を定量的に分析するための基礎的研究調査を積極的に推進しております。同時に、国内市場にとどまらず国際的な経済関係の実証分析も主要な研究テーマとしており、最近では、国際貿易に関連した問題として、内外価格差の測定とその発生要因の分析を行い、その成果は海外からも注目されています。

特に新しいテーマとしては、「経済活動と環境保全」に関する基礎研究と応用分析があります。環境を保全しながら持続的経済成長を可能ならしめるための、経済的諸条件や政策の在り方について、環境要因を取り込んだ経済モデル(例えば、環境分析用産業連関モデル)によるシュミレーション分析が積極的に進められています。

さらに最近では、日本学術振興会の未来開拓学術研究推進プロジェクト「アジア地域における経済および環境の相互依存と環境保全に関する学際的研究」を推進しています。

また、「投機的市場における価格形成」も新たなテーマの一つです。不確実性の支配する市場への立ち入った分析により、市場参加者の予想形成、取引きの行動、価格形成の仕組みを明らかにすることにより、株価・為替レート・先物価格・オプションプレミアムなどの投機的価格を高い自律度をもって説明することを目標としています。さらに実物経済と金融が大きく関連する昨今、資金循環勘定のデータ・ベースを充足させ、実証分析に備える基礎研究が立ち上がってきています。

法律部門は労働法と経済法の研究が中心で、実際の労働問題や独占禁止政策の在り方などにつき、専門知識の具体例への適用を含めて研究しています。判例および法令に目配りしていることはいうまでもありません。

また、国際比較にも力を注いでいます。労働法部門では、労働時間や男女雇用平等、ならびに労働組合の組識と不当労働行為制度に関する比較的研究を行っています。経済法部門では、WTOのほか日本とEU・EU諸国やアメリカの独占禁止法に関する諸問題を調査・研究しています。

行動科学部門においては、主として企業における能力開発や人材発掘に応用されるパーソナリティ診断テストの研究や、都市におけるコミュニティー形成の社会的・心理的基盤などに関して、フィールド・サーベイや聞き取り調査に基づいた実証的研究がなされています。

また、就業と企業内労働市場に関連して、研究開発部門の人材育成と人材交流の問題や、人的資源管理の問題が研究されています。

当研究所の研究上の国際交流は近年ますます活発となり、各部門とも国際学会と緊密な情報交換を維持するため、研究員の海外派遣のみならず、各国より訪問教授・訪問研究員の受け入れを行っており、各国の大学・研究所との共同研究プロジェクトも盛んに行われています。米国ハーバード大学との共同研究は今年で17年目に入り、韓国、台湾、中国を含む生産性の比較と国際競争力に関しての研究プロジェクトへの拡大へと進んでいます。さらに、中国国家統計局との共同研究として、中国の環境問題について研究が行われています。また、米国バージニア大学との共同研究として、日米の先物とオプションの価格形成メカニズムの比較研究も行われています。