法 律 部 門
T.「国際経済法秩序」に関する研究プロジェクト
戦後、資本主義に基づく自由貿易は、GATT/WTO体制を中心に展開してきた。それは必ずしも安定的なものではなく、米国の覇権が体制を維持する大きな要因として存在していた。しかし、米国が力を弱めつつ保護主義化する傾向の中で、自由貿易の枠組みは、GATTを中心に多国間で維持できるかどうかが問われる時代にさしかかってきている。ウルグアイ・ラウンド交渉を経て、WTO体制が果たして覇権を前提とせずに世界経済の構造変化に対応した経済秩序の枠組みとして機能するのであろうか。
この点を踏まえてここでは、国際貿易における知的財産権やサービス貿易などの新分野、貿易と競争、貿易と環境、労働と貿易等の将来のテーマ、そしてWTOの成立とともに大きな変化の見られる紛争解決メカニズムについて研究を進めることとする。
U.「独占禁止法」に関する研究プロジェクト
現在、さまざまな分野でグローバリゼーションの動きが活発化してきている。国際貿易においても、アングロ・サクソン的ともいえる欧米のルールと、アジアの論理ともいわれる極東のルールが衝突しながらも各国は調和を図る方向で政策を考えていかなければならない状況に陥っている。そこで、まず各国が目指すべきは、競争政策に関するルールの調和である。各国の経済状況、社会風土、ひいては法に対する意識に至るまで多種多様な中で、手続規定まで含めたルールの調和は困難を極める。
この点を踏まえて、ここでは日米欧の独占禁止法の比較を行う中で、調和の可能性を検討し、わが国独占禁止法の手続規定に関する検討・分析を行う。
V.「消費者行政及び消費者問題」に関する調査研究プロジェクト
従来の日本の政策は、一方の経済主体である事業者の意向を中心に進められてきた。しかし、現在の規制緩和の流れの中で、他方の主体である消費者の意向が重要となってきている。自己責任の原則に基づく消費者行政への転換が迫られてきている中で、新たな動きとして、取引の適正化に関する法律の制定へ向けた議論が活発化してきている。
この点を踏まえて、ここでは従来の消費者行政に係わる施策の見直しについて検討し、消費者の権利を確立する立法の動きに関する問題について検討を加えていく。
W.「労働契約の現代的課題」に関する研究プロジェクト
我が国においては、労働契約に大きな影響を与える労働基準法改正の議論が高まっている。規制緩和の要請と共に、かつての雇用保障を第一とする労働法のスタンスが移り変わりつつある。今年度も昨年に引き続き、この研究を継続する。
X.「EU労働法の形成」に関する研究プロジェクト
EUレベルでの、社会法領域における統一的法体系形成への歩みと努力を、 昨年に続き考察する。現在欧州における男女同一賃金規定のあり方と、集団的整理解雇について、月一回ほどのペースで研究会継続中である。
行動科学部門
T.「Work & Family Interface」に関する研究プロジェクト
2. 女性の就労、共働き家族などの進展に関連させ、一方で「育児休業法」及び「介護休業法」の施行とも関連づけて、文献研究、及び二、三の探索的研究(ヒアリング・質問紙調査)を可能な範囲で遂行する。
U.「組織におけるメンタリングとエンパワーメント」に関する研究プロジェクト
1. 今年度より5年間を一応の目途として、学卒者の「組織社会化」及び「キャリア発達」のプロセスを理解すべく調査研究を開始する。
2. 某企業組織からの研究協力が得られたので、同組織への 1998年度学卒新入社員(137名)を対象にした探索的・予備的研究をすすめる。
V.「情報とコミュニケーション」に関する研究プロジェクト
1.組織フラット化・成果主義化・社員自律化のすすむ時代における人事の視角についての研究
2.日本企業において組織変革を内部から進めることの可能性についての研究
W.「企業内労働市場」に関する研究プロジェクト
X.「外資系企業の人的資源管理」に関する研究プロジェクト
平成10年度は、この研究会は、9年度の計画をそのまま踏襲し、さらに多くの企業のヒアリングを行っていきたい。だが、その際にこれまでのように、企業の人的資源管理システム全体を問題にするのではなく、人材開発・処遇など、個々の人的資源管理分野に特定して、日本企業との比較、外資系企業のパターンがわが国企業のパターンから遠ざかっているのか、近づいているのか、その原因はなになのか、などに焦点を移していくつもりである。
Y.「グローバル化時代の賃金制度の在り方」に関する研究プロジェクト
従来日本の賃金制度は、職能資格制度に基づいて従業員の職務遂行能力の伸びを定期昇給という形で反映させていた。しかし最近は、グローバル化・規制緩和といった要因により、より業績主義的な賃金制度を導入すべきてあるという考えが強まっている。この研究では、現在日本の賃金制度にどの様な変化が生じているかを業績主義では先駆的と考えられる外資系企業との比較において明らかにする。また近年、行政改革論議の中で公務員の人事・賃金制度が俎上に上がっており、こうした公的セクターの賃金制度も研究の対象に含める予定である。
この研究は2年間を予定しており、初年度は製造業を、2年度は金融業を、各々研究の対象とする。
経 済 部 門
T.
「市場理論」に関する実証研究プロジェクト1. KEO-Harvard 共同研究プロジェクト
昨年に引き続き、Harvard大学D.W.Jorgenson教授、中国社会科学院数量・技術研究所李京文教授等との共同研究が予定されている。国際競争力、生産性の分析、また環境と経済の相互依存関係についての研究を継続する。
新古典派一般均衡モデルでの炭素税の評価をすでに試みているが、現行のモデルに加え、対象的に生産要素の短期的な硬直性を考慮したケインジアン・モデルにおいて中短期の炭素税導入のインパクトを計測し、シミュレーション結果については比較可能な形で整理を試みる。このモデルは従来より継続的に構築されてきたKEOモデルの延長線上にあるものとして位置付けており、様々な環境保全政策のシミュレーション、徴収した炭素税の還元について様々なシナリオの提供が可能である。
2. KDB(KEO-Data Base)の整備
上記、生産性等の計測や各種モデルで用いられているデータベースとして KDBの大幅な拡張及び延長推計の作業について完成した。それは前推計での問題点であったSNA(国民経済計算体系)との整合性等に考慮を払い、1960-92年について43産業部門(現行31部門より拡張)の時系列産業連関表、およびこれに対応した付帯資料として産業、性、年齢、学歴、雇用形態別での労働資料(Man,Hour,Wage)の整備、また資本については民間公的別に固定資本マトリックス(および固定資本ストックマトリックス)、民間公的産業別在庫形態別在庫品増加マトリックス(共に1955-92年)、産業別土地ストックの時系列推計などからなっている(この内容についてはKEOモノグラフシリーズNo.8『KEOデータベース−産出および資本・労働投入の測定−』1997年2月において報告しており、また産研ホームページにおいても全内容について公開している)。
またこの産業分類では詳細で豊富な付帯情報を付加したデータベースの構築が可能となっているが、それを補完するものとして長期接続表(1960-65-70-75年表は内生301部門、1975-80-85-90年では内生333部門)などを整理し、より詳細な構造変化及び技術進歩の分析に用いる。
今年度は、KDB体系の簡易推計による1995年までの延長と、1995年産業連関表の公表に伴って本格的な更新にむけての、推計作業のシステム化を試みる予定である。
3. 社会資本の推計と分析
現在、国民経済またその枠を越えたグローバルな経済の中で、特に社会資本の意味が見直されつつある。それは広義には社会的共通資本(Social Overhead Capital)としてインフラストラクチャーに加え、自然資本、さらには制度資本を含む概念であり、自然資本としての環境については詳細な分析がKEOの別のプロジェクトとして為されているが、ここでは狭義の社会資本について、現行まであまり為されることのなかった詳細な社会資本形成の推計及び社会資本ストックの計測をおこない、その評価をおこなう。特にそのデータベースとしてはSNAとの整合性を考慮した上記時系列固定資本マトリックスの中に整合的に位置付けられており、数年かけて行ってきた推計作業を完成した。
また社会資本の分析は、そのサービスを投入している民間部門との対応においてはじめて可能になると考えられ、そのためにKDB時系列産業連関表の運輸部門より鉄道輸送、道路輸送、水運、航空輸送への分割推計や、詳細な需要誘発効果の分析のために数時点の建設部門分析用産業連関表を連結して拡張した長期接続表(1975-80-85-90年表は364部門に拡張)の推計を昨年度に完成した。今年度は、我が国経済成長における社会資本それぞれの外部性の評価をおこなう予定である。
また特に米国で62年ぶりに改正され1996年2月に成立した電気通信法にみられるように、情報通信インフラストラクチャーは流通、運輸部門のみならず、市場全体に極めて大きなインパクトを持つと考えられる。この分析を視野に入れ、データベースとして上記時系列固定資本マトリックスにおいて資本財分類の基本分類への細分化をフローベースでは完成した。今年度はストックベースでの計測へと向かい、産業別情報通信関連資本ストックの評価をおこなう。
U.「労働市場理論」に関する研究プロジェクト
1. @ グローバル化と経済構造改革のもとでの、新産業発展の可能性に関する研究
A 高齢化、家族構造変化のもとにおける、所得と富の再分配システムの設計に関する研究
2.人口高齢化と競争の高度化という構造変化にともなう賃金・処遇・能力開発制度の変化についての理論・実証分析を行う。研究の方法は、企業内の制度や個人の行動を分析する学際的なアプローチをとり、できるだけ具体的な変化の姿を予測できるような分析にしたいと考えている。経済学、労務管理論、組織心理学の専任教員、産業研究所の特別研究員、および大学院生による研究プロジェクトを組織し、5月〜7月に基礎データの収集、8月〜11月に理論枠組の整理と実証計測作業、12月〜3月に分析のとりまとめを行う予定であり、研究費の総額は100万円程度を予定している。上述の構想変化に応じたこれからの企業内での賃金・処遇・能力開発の変化の具体的な姿を一定の与件のもとで予測できると考えている。
V.「統計的方法」に関する研究プロジェクト
統計的方法の体系は実体的諸科学の領域の実証的な研究において遭遇する分析上の困難を解決する手段として開発されてきた。このプロジェクトにおいても分析のための具体的理論模型の計測において生ずる統計的問題の解決策を一般的な統計方法論としてまとめていくことを目標としている。
各自、仕掛け品はいくつか持っているが、本年度に完成するかどうかは不確定である。したがって各自の研究成果は、平成10年度研究成果に報告されるであろう。
W.「投入−産出分析」に関する研究プロジェクト
1.国際産業連関プロジェクト
産業研究所の国際産業連関プロジェクトは、従来の一国産業連関モデルでは記述することができない経済関係を、レオンティエフ・モデルを基礎としながら二国あるいは複数の国を対象とした国際産業連関表の作成を通して記述すべく、一連の推計・分析作業を進めてきた。その最初の試みは、通産省調査統計部およびアジア経済研究所(現日本貿易振興会アジア経済研究所)統計調査部との共同研究として推計した1985年日米国際産業連関表であった。その後、ECの主要国であるドイツ・イギリス・フランスを含めた日・米・欧 (3極)国際産業連関表の推計を試み、さらには、アジア経済研究所で推計されたASEAN諸国の産業連関表を連結した日・米・欧・アジアからなる「世界産業連関表」の推計に参画してきた。最近では、1985年と1990年の2時点にわたる日米接続国際産業連関表の推計とそれに基づく分析を進めている。同時に、1995年日米国際産業連関表の推計を進めている。
特に、本研究所のプロジェクトでは、多国連結産業連関モデルの分析理論の研究に重点をおき、従来の貿易理論では取扱われてこなかった中間財貿易に関する理論的考察を進めてきた。それらの研究成果は、昭和61年(1986年)以来毎年の研究調査報告書として取りまとめられている。
また、昨年1997年から本産業研究所を研究拠点とする日本学術振興会の「未来開拓学術研究推進プロジェクト」においても、環境分析用国際産業連関表の推計を担当し、中国・韓国・タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・フィリピン・台湾との共同研究を推進している。当面の研究目標は、日本を含めたアジア9カ国の1990年および1995年環境分析用産業連関表を作成し、それらの連結を図ることである。周知のように、環境問題を産業連関分析と結び付ける試みは、1970年代の初期にレオンティフ自身によって提示された産業連関分析手法に基づく「公害分析モデル」に端を発している。本研究所国際産業連関プロジェクトは、さらに国際産業連関表と結び付けて、広域経済圏における経済と環境の相互依存関係を分析するためのモデル構築を目指している。
2
.地域産業連関プロジェクト地域産業連関プロジェクトとして二つの研究テーマを実施する。
@東京都産業連関分析
新たに作成される1995年東京都産業連関表のための理論的諸概念を吟味する。国際化、サービス化に伴う情報が充分把握されるようにするには、部門設定を含めて表形式をどのようにすればよいかが課題である。開発した大規模な産業連関表作成用のソフトや、産業連関モデル分析用のソフトの改良も引き続き行う。
本年度は東京都・その他地域からなる2地域間産業連関表をベースにして、都民所得統計、国民所得統計を連結し、東京都・その他地域のSAMを構築する。作成されたSAMを用いて、大規模な応用一般均衡モデル構築の理論的可能性を検討する。
A群馬県産業連関分析
比較的小規模な地域産業連関分析として群馬県をとりあげる。地域特性把握のための部門設定、国の産業連関表概念との整合性、サービスの移出・移入など地域内表作成のための理論概念の検討をおこなう。開発した分析用ソフトを用いて群馬県の地域産業連関モデルを作成し、地域の構造的特性を分析するとともに、政策のシミュレーションを行う。
3.中国産業連関プロジェクト
中国は、90年代に入ってから、従来特に80年代「沿海」地域開発を先行させる地域経済発展政策を見直し、「沿海」「沿江」「沿境」という全方位対外開放、および沿海から内陸への発展の波及を押し進める政策をとっている。「龍の頭」と言われる上海経済を含む長江流域の高度経済成長の背景には、1の国際産業連関プロジェクトで前述した通り、この地域の構造変化と中国国内やアジア地域・世界経済とのリンケージによって発展している。一般的な中国国内の地理的経済区の地域区分は、
1)
長江流域(九省一市(上海))2)
東北三省3)
西南五省4)
珠江デルタ(広東・海南)5)
環勃海地区(山東・天津・北京など)6)
中原地区(河北・山西など)7)
西北地区(甘粛・宇夏など)であるが、中国経済の成長と各「地域」経済の相互依存関係を研究するために、中国経済の時系資料の整備とあわせて中国地域別資料もあわせて整備する。特に地域的変化の代表例として、上海を含む長江流域の経済発展に関する研究も行う。中国研究を1.の国際産業連関プロジェクトから特別に分離独立させて研究する。分離独立させる主な理由は、以下のとおりである。
(1)
現在市場経済化を目指しているが経済システムが相対的に異質的と考えられる為(2)
経済統計の体系化,整備化が不十分と考えられる国への経済分析適用の方法論開発の為(3)(1)
との関連で計画経済への産業連関分析の応用範囲の限界を探る為
X.「国際貿易・直接投資」に関する研究プロジェクト
為替変動と内外価格差
世界銀行の協力を得て、商品別価格データ
(ICP(International comparisonof prices)data
)と国連国際商品貿易データを用い、アジア諸国の非関税障壁の関税等価率の測定を行う。これまで研究を進めてきた多国籍企業の進出と地域主義の関係に加え、
昨年に引き続き、文部省科学研究費の助成を得て、現地調査を行う。対象国はシンガポールとマレーシアを予定している。
また、
10月に内外の研究者を招き、アジア経済をめぐる第2回Japan-Europe Symposiumを開催する。B
サービス貿易と直接投資近年のサービス貿易をめぐる新たな進展を踏まえ、佐々波楊子・浦田秀次郎著『サービス貿易』、東洋経済新報社の全面改訂のための研究・作業を行う。
Y.「環境」に関する研究プロジェクト
当環境プロジェクトは、日本学術振興会未来開拓事業「アジア地域の環境保全」の支援をうけ、産業連関プロジェクト・経済モデルプロジェクトとの関連を強め、拡大発展してきている。その中で今年度は、以下の研究にたずさわる。
1.
自動車のLCA自動車についてはLCA(Life Cycle Assessment)計算を行う。昨年度はインプルーブメント分析に踏み込み、電気自動車の製造・走行によるCO2 負荷の計算、および電気自動車(EV)とガソリン車(GV)とCO2負荷の比較を行った。今年度はその成果を整理する。この研究は東京大学工学部石谷研究室との共同研究である。
2. SPS
の環境負荷に関する分析21
世紀の世界経済を考える上で環境負荷の少ない電力供給がかなめであると考えられる。SPS(Solar Power Station)構想とは宇宙空間に太陽電池をはりめぐらし、地上に電力を送るという未来の電力供給構想のひとつである。太陽電池、打ち上げの燃料、衛星、ロケットの製造からどれだけエネルギー、環境負荷がかかるのかを計算する。3.
鉄くず・高炉スラグ・フライアッシュの有効利用の研究設備の更新によって発生する鉄くず、銑鉄生産の副産物である高炉スラグ、電力生産の副産物であるフライアッシュの利用をミックスして、どれだけのエネルギー、環境負荷削減効果があるのかをシュミレーションする。
4.
カナダの環境分析用連関表の分析カナダの環境分析用産業連関表を入手し、それを用いて分析を行う。この研究はブリティシュ・コロンビア大学中村研究室との共同研究である。
5.
家計のライフスタイルと環境・エネルギー負荷の研究家計からどれだけの環境・エネルギー負荷が与えられているのかを
6. 1995
年環境分析用産業連関表の推定今までに作成してきた’85年、’90年表に加え、今年度は’95年表を作成する。
7.
中国環境経済モデルの作成当研究所で作成してきた
多部門環境経済モデルを作成し、環境シミュレーションを行う。
Z.「不確実性下の経済行動」に関する研究プロジェクト
このプロジェクトの中心的課題は、将来に関する不確実性の下で経済主体達が限られた情報からどのように予想を形成し、リスクをどのように評価し、その取引行動の結果市場価格がどのように定まっていくかを明らかにすることにある。市場で成立する価格を高い自律度をもって説明するためには、生産の技術的条件と家計の選好関数の把握だけでは十分でなく、市場そのものへ立ち入った分析が必要である。不確実性の支配する市場に関する従来の主要な理論では、市場参加者がすべて同一の価格予想を持つと仮定され、代表的な個体の行動の説明にだけ焦点が当てられてきた。そこでは、各自の情報と解釈により相異なる予想を持つ参加者が他の参加者との取引の過程で新たな情報を獲得して自分の予想を変更し、その結果市場で成立する価格も絶えず変わって行くというダイナミックな過程を分析しうる余地がなかった。そこでこのプロジェクトでは、財・金融・証券・労働など不確実性が支配する市場一般を分析対象として、既存の理論にとらわれず実証的に明らかにして行く。
今年度の研究計画としては昨年度に引き続き、先物およびオプション市場における価格形成の問題を中心テーマとする。具体的には次を計画している。
1.
市場のマイクロストラクチャーと市場流動性について個別取引データにより分析する。2.
税制がデリバティブの価格決定にどのように影響するかを検討する。
日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業
――未来開拓プロジェクト――
「アジア地域における経済および環境の相互依存と
環境保全に関する学際的研究」
この研究の目的は、アジアにおける経済発展と環境保全の両立をめざして、省エネ、環境保全の技術がアジア諸国の実経済社会に定着する可能性を明らかにすることにある。アジアの経済サイズは、我が国の1人当たりGDP3〜4万ドルから、発展途上国の5〜6百ドルまで大きく分布している。その中で中国を代表とする途上国では、エネルギー効率の悪さ、環境保全対策のおくれが目立っている。したがって、我が国の既存技術が途上国に導入されれば、それだけでも相当の効果がある。既存技術とりわけ脱硫、省エネ技術の途上国への定着とその経済効果を分析するのが第1の目的である。しかし、IPCCの場でもみられるように先進国内も21世紀の持続的発展への展望は暗く、化石エネルギーやCO2の削減はほど遠い現状である。したがって、先進国の技術移転だけではアジアの持続的発展はとうてい達成できない。そのため、未来技術として考えられるものをあらい出し、それぞれの省エネ、CO2削減等につき、LCA的評価と、実経済社会への定着性を経済モデルで分析したい。これがこの研究の第2の目的である。
未来技術について工学系研究者がいかにインテンシブに研究し、エコロジカルにすぐれた技術研究を出しても、それがエコノミカルでなければ実社会に定着しない。また、実社会に定着させるためには環境税、補助金、国際協調の共同実施(JI)など社会の枠組を変える必要もあろう。工学系研究者と経済学系研究者が情報のギャップをうめつつ、持続的発展という共通目的を遂行することがより進んだ学際的研究となる。
以下の
7.未来の省エネ、環境保全技術のLCA評価と経済効果の分析を行う。